「事故調査では、直接原因は特定しやすい。しかし、根本原因までは導き出せていないことが多い。直接原因を生み出した根本原因が分からないと、事故の再発を防げない」。医療機器開発のコンサルティングを手掛けるクオリス・イノーバ代表の木村浩実氏から最近伺ったことです。ところが、実際には直接原因と根本原因を区別せず事故調査に当たっているケースが多いといいます。

 事故調査における直接原因の特定とは基本的にメカニズムを解き明かすことであり、特定の人物や組織の責任を問うものではないので、議論しやすいという面があります。一方、根本原因の特定では直接原因が生まれたプロセスが議論の対象になります。その過程では「なぜそうした設計にしたか」「なぜデザインレビューで指摘できなかったのか」といった議論がどうしても避けられません。たとえ責任追及が目的ではないにしても、なるべくなら関わりたくないというのが多くの人の本音ではないでしょうか。特に“身内”だけによる事故調査が甘くなるのは、こうした事情があると思われます。

 その結果、直接原因の議論だけを基に再発防止策が作られることが多くなります。社内設計基準に新たな項目が追加されるかもしれません。しかし、それは単に「穴をふさぐための方法」であって、「穴が生まれるのを防ぐための方法」ではありません。欠陥設計が見逃された原因(根本原因)を取り除かない限り、同じ過ちを繰り返すことになります。

医療機器でも同じ状況が

 木村氏によれば、高い品質が求められるはずの医療機器でも、こうした状況が見られるといいます。医療機器の品質問題がなかなか減らないのは、直接原因の特定だけで満足し、根本原因にさかのぼって品質問題を分析していないからだと同氏は指摘します。

 当然ながら、直接原因を調査すること自体が悪いわけではありません。「直接原因の調査は、品質改善への重要なステップ」(木村氏)です。しかし、プロセスに真の問題があるという認識の下、その先のステップ(根本原因の特定)に進まなければ、きちんと機能する再発防止策を作れません。直接原因が判明してから、それを根本原因の調査にどう生かすかが重要になるわけです。

 そこで今回、木村氏に「医療機器の品質問題を防ぐ」というテーマで講演していただくことにしました。その際、直接原因と根本原因の違いを解説する教材として、手前味噌ではありますが『日経ものづくり』のコラム「事故は語る」と、同コラムの100本以上の記事を収録した書籍『事故の事典』も使用していただく予定です。