日経エレクトロニクス2月20日号で「スマートフォンが迫る、カーナビ再定義」という記事を執筆しました。内容は想像される通り、スマートフォンでカーナビを実現できる時代に、従来型のカーナビはどのように生き残っていけばいいのか、について書いたものです。

 この取材を通して自動車メーカーや車載機メーカーに取材をしたのですが、スマートフォンとの差異化の要素の一つとして各社から挙がったのがセンサ情報を活用した「コンシェルジェ型サービス」を提供することです。具体的には、車両内部のセンサや車載機のセンサから集めた情報を解析して、運転者の個々の状況や趣味嗜好に応じた情報を提示するサービスです。典型的な例としては、ホンダが「インターナビ・リンク プレミアムクラブ」として展開しているような各車両から速度や方向を集め、これを使って各車両が最も短時間に目的地に行けるルートを提示するサービスや、日産自動車が電気自動車「リーフ」で展開しているように車両の2次電池の容量を確認し、残量が少なくなると近くの充電ステーションを案内したりするサービスが挙げられます。各社とも、車両内部や車載機からしか得られないような情報を使うことで、インターネット・サービス事業者と対抗しようとしているわけです。

 この取材をしながら、少し気になった点がありました。それはコンシェルジェ型サービス実現のために集めたセンサ情報を自分たちのものと考えているように見えた点です。センサ情報は、利用者によって作られたものである以上、個人のものと考えるのが自然です。

 個人のものであるセンサ情報をサービス事業者が収集できるとされている根拠は、コンシェルジェ型サービスは利用者から許諾を取った上で、情報を収集しているというものです。しかし、利用者には2択しかありません。「サービスを利用するけど情報は収集される」「情報を収集されたくなければサービスは利用できない」です。中には、サービス利用に対して対価を払うから自分のデータは解析しないでほしいという考え方を持つ利用者もいるはずです。こうした逃げ道がないことに、少し違和感を覚えたのです。

 また、センサ情報を開示する自由も制限されているように感じました。例えば、自動車メーカーAのサービスで収集されたワイパーの動作状態データを、ワイパーの動きによって天気の状況を把握しているサービス事業者Bで使ってほしいと利用者が思ったとしましょう。この場合、サービス事業者Bが自動車メーカーAとアライアンスを組んでいないと、利用者から事業者Bに情報が渡りません。アライアンスを組むかどうかは事業者間の思惑であり、利用者の意思は反映されません。さらに言えば、自分の情報をコントロールする自由も制限されているように感じます。解析に使ってもらって良い情報と、使ってほしくない情報を選別する仕組みがない場合がほとんどですし、あったとしても分かりにくかったり、使いにくかったりします。

 お気づきだと思いますが、米Google社を筆頭としてセンサ情報を収集して自社のサービスで活用しているインターネット・サービス事業者も、集めたデータは自分たちのものという発想でサービスを構築しています。海外のニュース・サイトでの論調などを見ていると、最近、際限なくセンサ情報を集め、無料サービスの名の下にこれが使われることに嫌悪感を覚える動きが出てきているように感じます。コンシェルジェ的なサービスを考えている企業は、「センサ情報は誰のものか」をじっくりと考えた上で、サービスを開発する必要がありそうです。