ここまで説明する中で、「なぜ私は、プロボノを始めようと思ったのか」をだんだん思い出してきました。一言でいえば、会社に属しているだけでは、自分が社会やコミュニティーに貢献している感覚が薄いと感じたからです。

 長年企業に勤めると、それなりの専門知識が蓄積され、それなりの自信が付くものです。ですが、そこにとどまっていては、企業の収益のためにだけ貢献しているに過ぎません。いや、その企業の収益に貢献しているかどうかさえあやしいと思うことも正直あります。長年積み重ねてきたスキルをすべてその企業内だけで発揮できるとも限りません。

 人材コンサルティング大手の米Towers Perrin社(現Towers Watson社)が2006年に発表した有名な調査結果があります。それは「仕事に対して『非常に意欲的』と感じる日本人は2%しかいない。これは世界16カ国中で最低の水準」というものです。これは私が普段感じている印象と無関係ではないように思います。昔は「組織の歯車になんかなりたくねーよ!」という威勢の良いオジさまがいましたが、今や「歯車かどうかさえ分からない」人も多いという状況かもしれません。

貢献がスキルを磨くポジティブ・スパイラル

 人間は本来、他者に「貢献したい」生き物であり、恐らくは企業の中でも外でも、自らのスキルで誰かに、また属する社会やコミュニティーに貢献することを望んでいるのではないでしょうか。誰かに真剣に貢献することが社会貢献につながり、その貢献が自分の学びとなって自身のスキルにも磨きがかかっていく。 こうしたポジティブ・スパイラルの可能性を開くことが、プロボノの本当の魅力です。

 冒頭の「タイガース私設応援団」や「PTAのオヤジ会」はどうでしょう。社会的なコミュニティーであることには変わりはありません。そこで、自身が所属する企業などの他のコミュニティーで得たスキルを生かして貢献できるかどうか。そんな風に活動と向きあっていくことがやがては、プロボノやソーシャル・リーマンズとの結び付きにつながっていくのだと思います。

 応援団で太鼓をたたいたり、「オヤジ会」の一員として参加する地域イベントで焼きそばを焼いたりすることは、“スキルを活用したボランティア(プロボノ)”には、残念ながら直接関連しません。ですが、こうした団体への関わりから、例えば、団体のマネジメントや、参加者が参加しやすい仕組みのシステム化など、「企業経営」「IT技術」などの専門スキルを生かす場面に出くわす可能性だってあるのです。

 そうした意味で、実は身近な場所にもプロボノのタネは転がっています。それをステップに少しずつ広い範囲の社会貢献に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。そう考えると、プロボノの取り組みは、グッと自分の活動範囲内に近づいてくると思うのです。