さてこうした中、春節前後のEMS/ODM業界では、カメラのデジタル化に乗り遅れた企業の動向が注目を集めた。撮影用品大手の米Eastman Kodak社の経営破たんである。1月19日、同社はニューヨーク連邦地裁に破産法(民事再生法)を申請。2月9日には、今年上半期、デジタルカメラとデジタルフォトフレームの事業から段階的に撤退していくことを明らかにした。
 
 当然、コダックのデジカメを受託生産する台湾系のデジカメ関連メーカーにも影響が及んでいる。当社のウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)でも「コダック経営破たん、台湾系の受託生産メーカーにも余波」として報じたが、台湾紙『経済日報』(2月7日付)は、台湾Altek(華晶科)社、台湾Asia Optical(亜光)社などの受託生産メーカーが、コダックの経営破たんで貸し倒れの危機に直面。さらに2月6日には、Altekがかつて、あるデジカメブランドメーカーの受託生産を受注した際、コダックに納めるべきロイヤルティを支払わなかったとして、米でコダックがAltekを訴えるという事態も発生したと伝えている。コダック関連の損失は、Altekが売掛金と在庫合わせて6億2400万NTドル(1NTドル=約2.5円)、Asia Opticalが同10億3000万NTドルに上るものと見られている。

 台湾のあるエレクトロニクス業界筋によると、コンパクトデジタルカメラ(コンデジ)の受託生産を手掛ける台湾系の主な受託生産メーカーにはAltek、Asia Opticalのほか、EMS世界最大手のフォックスコン(FOXCONN=鴻海精密)、Ability(佳能)がある。同筋は、「高性能カメラを搭載したスマートフォンの急速な台頭により、コンデジ市場は縮小の一途をたどっている。業界の巨人・コダックの経営破たんにより、台湾系のデジカメ受託生産企業は、貸し倒れの不安に直面したばかりでなく、コダックからロイヤルティの支払いを求められるという仕打ちをくらった」と指摘。「今回のコダックの一件で、受託生産各社は、コンデジからデジタル一眼などハイエンド製品の受託生産へとモデルチェンジを図る時機が到来したことを実感しているようだ」と話す。

 コダックの最大サプライヤーと目されるAltekは、デジカメの出荷量が2010年、約1800万台に達した。台湾の経済紙『工商時報』(11年7月6日付)によると、コンデジの受託生産で最大の顧客は富士フイルムだが、2011年にはコダックのほか韓国Samsung Electronics社、ニコンからも新規受注に成功している。

 一方で、コンデジ市場の縮小により、スマホ用カメラへの取り組みも進めている。11年3月には、1400万画素のCCDカメラモジュールを搭載した自社ブランドのAndroidスマホ「LEO」を発表した。同社携帯電話事業部の梁志賢副総経理によると、同社の携帯電話の生産能力は1ラインあたり月産5万台。台湾のほか、中国、ロシア、インドなど新興国でも販売する。同社では、携帯電話とデジカメ部門の統合を進めるほか、研究・開発(R&D)の人員を過去最大の300人体制に増員したという。

 一方のAsia Opticalは、スマートフォンとの差別化や、ハイエンド製品へのシフトで生き残りを図るようだ。コダック破たん後のメディアとのインタビューで頼以仁董事長は、「高速連写や動画の撮影でCCDセンサーよりも強みを持つCMOSセンサー搭載機に向けた技術を強化していく」と強調。また、12年のデジカメ出荷目標である700万台のうちハイエンド製品を300万台以上と、出荷全体にハイエンドの占める割合を11年の20%から12年には40%まで拡大したい意向を示している。

 Asia Opticalは11年8月、パイオニアと共同で中国のデジタルカメラ(DSC)市場参入を表明している。中国の家電最大手、Suning(蘇寧電器)との提携を強化し、「Pioneer」ブランドのデジカメを2015年に50万台販売することを目指している。生産は、Asia OpticalがODMで行うという。

 Asia Opticalとパイオニアは南米市場での展開でも協業。デジカメの受託生産と部品の共有を目的に同8月、ブラジルのマナウス市に生産合弁会社「パイオニア・ヨーキ・ド・ブラジル」(Pioneer Yorkey do Brasil)を設立している。