米国の半導体メーカーであるLSI社(LSI Corp.)をご存知の方は少なくないと思います。大手ASICメーカーだった米LSI Logic社が、通信機器向け半導体などに強みを持っていた米Agere Systems社と2007年に合併し、社名を変更してできた会社です。

 なぜこの会社を取り上げるのかと言いますと、昨今、業績不振に悩む国内の大手SoC(system on a chip)メーカーの向かう先として、一つの指針となり得ると思うからです。ちなみに、LSI社の2011年通年(1~12月)の決算結果を見ると、売上高は20億4400万米ドル、純利益は3億3150万米ドルです。売上高は国内の大手半導体メーカーに比べると少ないですが、対前年比では約10%増と上り調子です。純利益に至っては前年比8倍以上に増えており、絶好調と言っていいでしょう。

 ここで国内大手SoCメーカーに話を移すと、最近になって、事業再編に関する報道が出始めました。複数の国内大手半導体メーカーが、SoC(system on a chip)事業を統合する方向で議論を始めた、といった報道です。再編の基本的な方向性は、これまで日本メーカーが長年続けてきた、設計と製造を併せ持つ垂直統合型の事業体制を見直し、ファブレス化やファウンドリーを指向するというものです。

 かくいうLSI社こそ、垂直統合型の半導体メーカーがファブレス化した先駆けと言える存在です。LSI社は、かつては“ASICの雄”として名を馳せる、バリバリの垂直統合型半導体メーカーでした。しかし、ASIC市場の成熟や、設計と製造の分業化などの流れに押される形で、2000年代前半に業績がジリジリと下降線をたどりました。そうした最中の2005年、同社は突然、ファブレスへの方針転換を図ったのです。実に日本メーカーに比べて7年以上早い経営判断でした。

 ファブレス化により、LSI社の固定費負担が大きく減りました。それでも、LSI社は構造改革の手を緩めませんでした。大胆な注力分野の再構築を断行したのです。前述のAgere社との合併が完了した2007年だけでも、コンシューマ向け製品事業の売却、モバイル部門の売却、そして、タイの後工程工場の売却を矢継ぎ早に行います。LSI社が打つ手は事業売却だけではありません。2008年にはドイツInfineon Technologies社からHDD向け半導体事業を買収します。2008年当時、LSI社のPresident and Chief Executive Officerを務めるAbhi Talwalkar氏に事業改革の方向性を聞いたところ、「ストレージとネットワークの2分野に特化する会社になる」と宣言していました。ここで確立させた事業構造こそが、現在のLSI社の躍進を支える礎になっています。

 実は最近も、LSI社は注目すべき企業買収を実行しています。2011年10月にSSD向けコントローラを手掛けるSandForce社を3億2200万米ドルで買収することを発表し、つい最近、買収が完了しました。このSandForce社は、SSD業界ではかなり知られた企業で、パソコンやサーバー機向けコントローラで世界トップ・レベルの技術を持つとされています。このSandForce社を手に入れることで、LSI社が絶対に他社に負けることができないコア事業であるストレージ向け半導体事業の競争力がさらに高まるでしょう。今後はデータ・センターなどのストレージ装置として、SSDの採用が加速するとされています。サーバー向けSSDコントローラに強いSandForce社の買収は、LSI社にとって力強い手駒になるわけです。

 そのLSI社がいま全力を挙げて強化を図っている領域、それは、「ネットワーク・インフラ向けの半導体ソリューション事業」(LSI社の日本法人であるLSIロジック 代表取締役の迫間幸介氏)といいます。スマートフォンをはじめとする莫大な数の機器がネットワークにつながり、ネットワーク上をおびただしい量のデータが行き交うことになる以上、ネットワーク・インフラの負荷は高まるばかり。そこに使われる半導体の重要性も高まる、という同社のストーリーには納得させられるものがあります。

 ファブレス化や注力分野の絞り込みという痛みの伴う構造改革を断行しつつ、必要とあれば大型の事業買収にも躊躇なく踏み切る。LSI社が実践してきたこのダイナミズムに日本のエレクトロニクス・メーカーが学ぶところは大いにあると思っています。