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「いいもの」だけでは売れない中国的流通事情

山田太郎=ユアロップ 代表取締役社長
2012/02/10 08:00
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「中国の人口は13億人。その15%が富裕層だったとすれば約2億人」

 そんな甘い言葉につられているわけではないだろうが、中国市場での展開を図る日本企業が増えている。特に、飲食、雑貨などのコンシューマ製品を中国で販売しようと計画する企業の増加が目立つ。しかし、本当に勝算があって進出を考えているのだろうか。気になるのは、中国独特の流通事情を理解したうえで、計画を進めているかということだ。

 「ここのところ、日本製炊飯器の売れ行きが素晴らしく伸びている。前年同月比でみても3倍もの伸びだ。この流れをとらえて、最近、売れ始めているコーヒーメーカーの新たな販売を推し進めたい」。そんなもくろみをもった日本メーカーの担当者から、中国進出に関して相談を受けた。

 中国の食生活の変化は激しい。食事の席での「乾杯」は、もはや白酒(バイジュ)、紹興酒などのいわゆる中国酒ではない。ビールでもない。今、流行っているのは「赤ワイン」だ。これをぐっと一気に飲み干す。そして、コーヒー。「胃に悪い、健康に悪い、黒くて縁起悪い」と、悪いずくめで決して飲むことのなかった中国人が、この10年間でコーヒーを好んで飲むようになった。「スターバックス」は、日本とほぼ同じ価格帯でコーヒーを中国現地で売っているが、店内は若者でにぎわっている。

 確かに、流れはきている。しかし、商談を持ちかけられた中国人バイヤーは浮かない顔だ。最近、200元以下の安価な中国製コーヒーメーカーが市場に出回っているからである。しかし、この日本メーカーの担当者には自信があった。実は、この製品は日本でデザインはされているが、台湾で生産しコストを抑えている。まとまったロット注文が入れば中国生産に切り替え、さらにコストを抑えることができる。そのためには、300万台を超える生産規模を確保しなければならないのだが。

 売り込み先の中国のスーパーは、決して大きなチェーンではないが、1店舗当たり年間5万台以上のコーヒーメーカーを販売している。そのチャネルに百貨店を加え、40カ所で販売すれば、目標は達成できる計算だ。

 ただ、どこで売るかという問題がある。「日本人は上海がお好き」で、まず何でも上海で始めてみようと考える傾向が強い。しかし、これは賢い方法だとは思わない。私が常々日本のクライアントに言っている。「上海は、豊富なモノがあり、スタイリッシュでデザインのいい中国製の製品やサービスが溢れかえっている。彼らと競争して勝つのはえらく大変ですよ」。

 中国には、北京、上海、広州、重慶に代表されるような1級都市が18都市、石家庄、長春、合肥、珠海に代表されるような2級都市が25都市、唐山、中山、温州に代表されるような3級都市が24都市、それ以下、4級、5級都市がそれぞれ、18都市、23都市ある。日本人は、日本でも有名な1級都市を狙って店舗を出したり、製品を販売したりしたがる傾向がある。しかし、私の経験では、日本の製品やサービスを好んで買ってくれるのはむしろ、2級、3級都市以下の都市だと思う。

 今回も、上海ではなく、2級都市で内陸部にある安徽省合肥などを薦めてみた。合肥の人口は500万人を超えている。たとえば静岡県は、県全体の人口が377万人である。2級都市とはいえ、それより規模が大きいのである。しかし、まだまだ発展過程にあり、市民は欲しいものが満足に買えない。ちょっとしたものは、160キロも離れた南京まで出かけて行って買ってくるという状況である。その合肥にある大型スーパーでソコソコのモノを扱ってもらえれば、飛ぶように売れると思うのだが。

 しかし、日本のメーカーは、やはり上海、北京、広州など一級都市にこだわる。そうであれば、相当の努力をして過当競争を勝ち抜かねばならない。やはり、武器になるのは価格である。

 「199元で販売したらどうか」と私は提案した。日本デザインだからといっても、中国製品より割高では勝てない。どうしても200元を割りたいと考えたのだ。そして、ここからが商談のクライマックスである。

 「利益はどれくらい欲しいか?」と聞くと、「10%は欲しい」と中国人バイヤーは言う。日本の感覚でいえば「それは安い」ということになるかもしれないが、中国ではスーパーに対して10%というのは極めて高いマージンなのだ。中国の中堅スーパーのマージンは、6~7%ぐらいが妥当。日本のように15%、20%などというのはあり得ない。それを踏まえ、「5%でどうか」と私は切り返す。長時間の交渉を経て、結局は7%で妥結した。「まず、販売数量は最初5000台。この数量を超えればリベートを上げよう」ということで。

 すると中国側から「仕入れは、スーパーの指定するトラック1台分毎にして欲しい」と強く要求された。この要求の背景には、中国特有の物流の問題がある。一度に多くを仕入れた場合は、倉庫に一時保管しなければならない。その間に、盗難に遭う恐れがある。さらに、一度倉庫に入れるとそれだけ積み下ろしの回数が増えるため、製品が破損する恐れが増す。荷物の扱いがひどいのだ。しかもトラックは、物資が満載にならないと出発してくれない。納期も守れない可能性がある。こうした事情があるため、工場から販売する店頭まで、必要数量の製品を一度も積み下ろしせずに持ち込むことが求められるのだ。

 スーパーに続き、百貨店での交渉が始まった。こちらはバイヤーが強気だ。20%を18%下げ、さらにねばってようやく15%にすることができた。

 いずれにせよ、日本のスーパーや百貨店と比べれば、えらく利益の幅が小さい。だから、どんどん売らなければならない。逆にいえば、間違いなくどんどん売れる商品しか扱えないのである。売り方にしても、お高く綺麗にディスプレーして、懇切丁寧に売っている余裕などない。いかに安く売るかで勝負せざるを得ないのである。

 こうした世界で勝負しているバイヤーの期待にどこまで応えられるかが、中国市場での成否を決める重要なカギとなる。「日本製品はいいものだから高くても売れるはずだ」などという素人考えで成功できるほど、中国市場は甘くないのである。

本稿は、中国ビジネス専門メルマガ『ChiBiz Inside』(隔週刊)で配信したものです。ChiBiz Insideのお申し込み(無料)はこちらから。
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