最近、スポーツカーの話題がなぜか尽きません。代表例はもちろんトヨタ自動車と富士重工業が共同開発したスポーツカーの「86(ハチロク)」と「SUBARU BRZ」。それ以外にもホンダがデトロイトショーで「Acura NSX」を発表し、日産自動車は電気自動車のスポーツカーを見せています。

 今はエコカー隆盛の時代。スポーツカーは遺物と言えそうなのに・・・。

 一昔前は、スポーツカーと言えばメーカーの“顔”でした。個人的な各メーカーの代表車を挙げるとトヨタは「スープラ」、日産は「スカイラインGT-R(R32)」、ホンダは「S2000」、三菱自動車は「ランサーエボリューション」で富士重工業は「インプレッサ」、マツダは絶対に「RX-7」・・・(異論は受けません。広島県で育った私は、小学校時代にマツダの工場見学で見たRX-7のかっこよさが忘れられないので、「ロードスター」ではなくセブンです)。

 けれども2000年を過ぎてからスポーツカーはどんどん発売中止になります。理由はいろいろありますが、やはり1997年に発売された「プリウス」のヒットの影響が大きいでしょう。以前は「先端の自動車=スポーツカー」という図式が残っていましたが、プリウスの登場で「先端の自動車=エコカー」に完全に変わりました。

 この10年でトヨタからスープラに「セリカ」に「アルテッツァ」、ホンダからS2000や「NSX」がなくなりました。そして2011年にはついに、マツダがロータリーエンジンを載せた「RX-8」の生産をやめると発表しました(Tech-On!関連記事)。日産はGT-Rを出し続けていますが800万円以上もする超高級車で、昔のGT-Rのイメージからするとなんだか違うクルマです・・・。

 話しが少しそれましたが、そんなスポーツカーが復権です。先日の86の発表会で、トヨタ社長の豊田章男氏は「クルマにおける“スポーツ”は絶対になくならない」と、なかなかグッとくる宣言をしていました(Tech-On!関連記事)。でも、大人になれば分かります。世界中で激しい競争を繰り広げる自動車メーカーが、そんな感傷論だけでクルマを造ることはあり得ません。

 では今、なぜスポーツカーなのか。二つの理由が考えられます。一つが、新興国市場の台頭。先進国でスポーツカーに対する関心は薄れつつありますが、新興国でこれからモータリゼーションが始まる国ではクルマに対する関心は高く、スポーツカーに対する憧れはまだあります。トヨタは86を世界中で販売する計画。新興国でトヨタブランドを浸透させるのに、スポーツカーは役立つと計算しているはずです。だから86は200万円台。新興国で500万円台のスポーツカーを出しても、多くの人がどう無理したって手が届きません。「AKB48」ではありませんが、新興国で手の届きそうな(実際には届かない)“アイドル”として86というわけです。

 もう一つは、エコカーを差異化するため。エコカーだらけの今、それだけではほかのクルマと変わりません。日産が電気自動車のスポーツカーを開発しているのは、そうした代表例と言えるでしょう。加えて、エコカーの裾野を広げる役割もありそうです。逆説的な感じがしますが、スポーツカーとすればエコに関心が薄い層もエコカーに取り込めそうです。

 なんにせよ、スポーツカーの存在価値はまだまだ十分にありそう。となれば、次はエコなサバイバルカーという路線を個人的には期待したい。壊れずに転ばずにどこでも走れる「ランドクルーザー」みたいなクルマに“エコ”というのはどうかなと。ランクルこそトヨタの数ある車種の中で最もクルマらしいクルマだと勝手に思っているので、特に期待してみたいところです。課題は、複雑なハイブリッドシステムの整備性になるのでしょうか。