2012年。21世紀も始まって10年以上。20世紀末には、21世紀の技術予測が盛んに行われた。ご多分にもれず、私も電子計測器&システムガイドブック2001(日本電子機械工業会編)の巻頭を飾らせていただいた。

 予言と違って予測という以上は書きっぱなしでは不味い。ここらで少し検証させていただきたい。まだ早いという方もいらっしゃるだろうが、21世紀末には私は百数十歳。振り返りも反省もできない。ここしばらく、お付き合い願いたい。

 先の巻頭特集では、21世紀の世界モデルを提案させていただいた。18世紀の産業革命は蒸気機関の発明が起こしたものである。外燃機関である蒸気機関はお湯が沸けば力を出す。つまり、お湯は薪でも石炭でも石油でも構わない。そこで、物質にとらわれないエネルギーという概念が生まれた。20世紀には情報処理技術の象徴であるコンピュータが発明された。これに情報通信、情報蓄積の技術が絡んで情報社会を生み出した。

 つまり、20世紀の世界モデルは物質、エネルギー、情報の三階層モデルである。実際、家庭も工場も、物が移動する廊下やパイプ、コンベアがある。そして、エネルギーが移動する電力線やガス管が設置されている。加えて、情報が移動する有線や無線のネットワークが張られている。もちろん、世界も物質の移動を担う流通、エネルギーの移動を担うパイプライン、情報の移動を担うインターネットと綺麗な三階層モデルを構成している。

 先の10数年前の予測として、この三階層モデルの統合を提唱した。情報技術は20世紀を大きく変革した。便利にはなったが、大きな変化には必ず揺り戻しがある。実際に揺り戻しが、この10年になされてきたと考える。

 たとえば、グリーンIT。エネルギーと情報技術の融合である。RF-ID。物質と情報技術の融合である。現在、大きな話題となっている原子力発電の問題。原子力から作られる電気というエネルギーをガスや石油、再生可能エネルギーでどう代替したら良いかという問題である。これは、明らかにエネルギーと物質の再統合の動きである。

 言い方を変えれば、情報技術で世界が大きく変わるとバラ色の未来を描けたのが20世紀。21世紀を迎えてみると、エネルギー制約、資源制約の壁でバラ色の未来に枷がかかっていたということが現実だと思う。原油やガスは高騰し、レアアースは輸出制限がかかっている。この制約の回避にはエネルギーと物質の融合という視点が欠かせない。もちろん、エネルギーと物質だけでなく、情報技術も取り入れれば回避の自由度が拡大する。その意味で、三階層の融合が21世紀のキーワードであろう。

 この三階層融合で興味深いのは生体である。ウィナーのサイバネティクス、アポロ計画に触発された人工知能研究、神経回路に遺伝子アルゴリズムに免疫系にバイオミミクリ―。20世紀後半は「生物に学べ」が合言葉の一つであった。これに従えば、生体が物質、エネルギー、情報をどう扱っているかが興味深い。

 注目するのはホルモン系である。植物には神経系がない。しかし、植物も動物もホルモン系はある。その意味で、生体における根源的な情報ネットワークはホルモン系だと思う。ホルモン系は情報を流す。男性ホルモンや女性ホルモンが体中に流されることで、男の体、女の体が出来上がる。その濃度は潮の満ち干に連動するかのように変化して身体に大きな変化を与える。これは情報系である。

 ホルモンは物質であり、血管を流れる。同じように血管にはエネルギーを担う物質、身体の構成部品となる物質が流れている。どれも物質であり、それが主に情報の役割を担っていたり、エネルギーの役割を担っていたり、物質の役割を担っていたりするものである。

 正に三階層の融合である。ロボットのカバーを開けると、エネルギーを流す電力線と情報を流す有線ネットワークである電線が色鮮やかに見える。しかし、身体を成長させたり、修復させたりするための物質の伝送線はみられない。生命を与えるとは新陳代謝をさせることである。死と生が同居しているのが生命である。現在のロボット、住宅、工場は未だ生命を宿してはいない。

 物質、エネルギー、情報の三階層融合は生命を与える方向性を示しているのかもしれない。21世紀という時代は、そのような融合化に進んでいると感じる。言葉を獲得し、道具を使えるようになった移動機械が、生命の根源をも掴み始めている。それが2012年の状況である。