未来を切り開く技術マネジメント

 2007年のサブプライム問題に端を発したリーマンショック、2011年3月11日に日本を襲い、世界の原発エネルギー問題に影響を与えた東日本大震災、そして、ギリシャの国家財政危機から波及しつつある欧州債務危機。さらにはこれらが複合的に作用して、2012年はBRICs を中心とする新興国の成長に陰りが出てくるとも言われています。こうした不確実性が高まる趨勢(すうせい)の中で、日本のものづくり企業はどのように戦うべきでしょうか。利益を確保するために、一般管理費や販売促進費を切り詰めることは必要でしょう。製品原価や在庫を低減するカイゼン活動の推進もしかり。しかし、縮小路線を進んでいては、中長期的には組織、社員、風土、顧客、取引先といったあらゆる面において悪影響が出てきます。いわゆる「成長は全てを癒す」の対極です。不確実性の高い世の中で成長を目指すにはどうしたら良いのでしょうか。

 筆者は、自社の技術をマネジメントすることで未来を切り開くことだと考えています。では、自社の技術をマネジメントするとは一体、どういうことでしょうか。それは、以下の手順で推進することができます。

(1)自社技術の資産価値を正しく理解する
(2)新しい技術の獲得を戦略的に企画する
(3)その技術を効果的、効率的に自社開発する
(4)自社で短期間に開発できない場合は外部から取り入れる
(5)特許を獲得しながら事業展開に最大限に活用する
(6)技術の人材ポートフォリオを構築する

 本連載では、(1)~(6)の順で、例示や図解をできるだけ多く使いながら説明していきます。

技術と市場を「市場の目」で繋ぐ

 第1回のテーマは、「(1)自社技術の資産価値を正しく理解する」です。何事も将来のありたい姿を考える前に、まず現在の状態を知ることが大切です。その意味では、現在、自社が保有する技術の資産価値を正しく理解することは、技術マネジメントの第一歩と言えます。

 資産価値を正しく理解するためには、技術を客観的に評価することです。ここでいう技術とは、要素技術、材料、部品、組み立て、加工、生産、品質管理、技術ノウハウ管理などを指します。どの企業も技術資産は保有しているでしょう。しかし、それらの資産が自社の顧客にとってどれほどの価値があり、競合に比べてどれだけ優位性があるかについては、ほとんどの企業が評価していないと思います。自社の技術資産を「市場の目」で評価し、それらを全て棚卸しすることができれば、経営資源を強みづくりに集中させることで経営効率が上がり、技術の強みを生かした新製品で新市場を形成したり、既存市場で競合他社を圧倒したりすることができます。

 ここで大切なことは、どうやって「市場の目」で評価するかということです。ともすると、担当技術者は自分が開発している製品や技術に対して過度な自信を持ち、他社の製品や技術が見えなくなるという視野狭窄症に陥りがちです(筆者も技術者だった頃は同じ轍にはまっていました)。現在開発中の製品や技術が顧客にどういう価値をもたらすか、競合他社はどのような製品や技術を開発しており、それらに対する自社の製品や技術の競合優位性は何か、などの問いに論拠をもって明確に答えることができれば合格です。それができないのであれば、それができるまで同じ問いを繰り返し、答えの仮説を立て、それらを検証することが合格への道になります。