◇複数社協業型(垂直統合型)の“もの・ことづくり”

 Apple社のビジネスモデルは、協業による“もの・ことづくり”であり、競争相手もいずれ出てきても、シェアで勝者になればパートナー間で利益を分け合うことが可能である。しかし、この協業の中にあっても、“物”の提供者としての役割しかないとすれば、ほとんど存在意義を持たないといってよい。Appleの製品に対する部品供給者として日本企業の名が連なっているが、“物”以上の価値を提供する“ものづくり”ができるからこそ協業が可能になる。

 しかし本来は、“もの・ことづくり”の共同開発者としてのポジションを得ないと、競争は勝ち抜けない。このあたりが、本コラムの主題である設計力強化に通ずる観点である。

 このパターンでのリーダーとなるには、技術イノベーションだけでなく、ビジネス・イノベーションを含めたビジネス戦略、それを実行するグローバルなアライアンス作りが重要である。筆者としては、例えば現在のAppleと同格ぐらいのポジションで、日本のデジタル家電メーカーが堂々と競える環境醸成も必要と考える。戦後の日本の産業界に貢献してきた家電などの業界が、生産のみならず開発・設計などの川上機能までも海外移管して国内を手薄にしてしまうと、本当に取り返しのつかない弱体化が進んでしまい、それこそ”物”も“もの”も“もの・こと”も、何もできない国になってしまう。

 次回に詳しく述べる予定であるが、“国を挙げて”の“もの・ことづくり”には大きな戦略が必要であるし、何よりそれを実現できる機軸産業の確立、それらの融合を可能とする関連産業の裾野の拡大、という国全体としての「戦略的な産業育成」が絶対に必要である。

 ここで、昨年(2011年)末の日本経済新聞に気になる記事があったことを記しておきたい。日本総合研究所関西経済研究センターの廣瀬茂夫氏が2011年12月8日付け「十字路」に書かれた『産業構造や地方経済に厚みを』である。

 『ひとつは「産業の分厚さ」である。「フォーチュン500」社で売上高500億ドル以上の超大企業を抽出し日米を比較すると、日本の企業数が多いのが自動車、商社、電力、郵便の4分野であるのに対し、米国は金融保険、ヘルスケア、小売り、エネルギー、産業機械、薬品、通信、日用雑貨、食品、化学といった幅広い産業で日本を上回る』。

 さらに、先日のオバマ大統領の一般教書演説で、同氏は「製造拠点を米国に取り戻す、米国の製造業復権」を高らかに宣言した。重点は自動車産業にあるが、Appleの商品についても米国内での製造ができないか、関係者からヒアリングしたと報じられている(筆者の理解では、特にこの分野においては米国内の“ものづくり”が既に空洞化しているので、不可能ではないにしても当面は困難だろうとは思っている)。

 1970年代から日本の家電・自動車産業にお株を奪われて空洞化が進んだ結果、米国は「物」や「もの」よりも知的財産、サービス、金融など実体の見えないものでリードして世界を制覇する戦略に出ていたと思い込んでいたが、どうも違っていたようだ。家電以外の産業の裾野は、どっこい現在でも分厚いし、それに加えて製造業の米国国内回帰・強化という政治戦略を掲げて新興国市場に向け、手も打てるであろう。国としての戦略には、大いに学ぶべきものがあるのではないだろうか。

 一方、日本国内には、自動車産業の分厚い裾野は残っているが、家電産業では海外移管により関連企業の層がどんどん薄くなっていくのが心配である。

 次回では、このあたりを中心に“国を挙げて”の“もの・ことづくり”について述べたい。