◇1社(もしくは少数協業社)で完結可能な“もの・ことづくり”

 第2回で述べたビジネス・プリンタの印刷最適化を含めたプリンティング・文書管理サービスや、コマツの建設機械遠隔管理サービス「KOMTRAX」などもそうであるが、日本の“もの・ことづくり”を展開しやすい領域だと思っている。

 分かりやすくプリンティング・サービスを例に取ると、“こと”とは顧客に印刷機能・文書管理の最適化を提供するビジネスモデルである。また、顧客への提供価値を最適化・最大化するのに必要なデータを機器からセンサで収集、サーバに集約し、必要なロジックを介して常時総合的に判断するための「しかけ」が“もの”である。その機能を構成する部品・製品は“物”である。“もの・ことづくり”とは、それらを融合させて、一貫したビジネスモデルとして企画~設計~立ち上げを実行し、市場を獲得する一連の仕組みである。

 ちなみに、この「しかけ」はM2M(Machine to Machine)と呼ばれる、センサやサーバなどの機器同士がネットワークを介してつながる自立的な通信機能、または自動的な制御機能であり(日本でも「M2M」でようやく通じるようになってきた)、“物”や“もの”を“こと”にするのに重要かつ必須の技術であり、日本が得意とする分野である。

 このビジネスモデルの例を挙げると、MRI(核磁気共鳴画像法)装置などの高額な医療機器では以前から実現されているし、各種産業機械でも近年はよく聞くようになった。機器の稼働率が常に高い状態を保てるように、仕様通りに動くこと、ダウンタイムを極小化することといったニーズを満たすため、さまざまな現象の予兆をとらえて未然予防的な保全対応ができる。また、そのしかけを用いて、稼働パターンが顧客によってどう異なるかなどの情報を集めて、次のビジネス提案に際しての的確な情報としても活用できる。日本が得意とする自動販売機や、医薬品や食料品の調合・詰め合わせ・梱包などの産業機械の最適制御などを対象として、まだまだ展開の余地があると思っている。

 このタイプの“もの・ことづくり”で留意すべき点は、プロダクトアウト的なものに陥りがちということである。提供会社がトップシェアを確保し業界のデファクト・スタンダードにする力を持っていれば強力なビジネスモデルを維持可能だが、顧客囲い込みを意識しすぎて標準化への準拠を無視すると、長い目では顧客の選択肢を狭めることになり、最終的には顧客離れを招き、足元をすくわれかねない。その意味で、提供側自身に不利となる恐れのある互換性を持つ仕様を、業界リーダーとしてどう共通化・標準化まで持っていけるかが、このパターンの継続の成功のカギであろう。

つまり、1つ目は先頭を切ってデファクト・スタンダードになって市場を引っ張れること、2つ目は工業標準化とその実用化において主導権を握り、その市場に参画できることである。

 コンシューマ製品では、1社(少数協業社)でクローズしたビジネスモデルは独自環境下での稼働になるので、いわゆるガラパゴス的な独自進化状態となり、市場に広く長く受け入れられるには難点がある。むしろ、じっくりと標準化のイニシアティブを握れるポジションを勝ち取る戦略が重要となる。

 例えば、液晶テレビの苦戦が報じられているが、つい数年前までは、技術イノベーションを伴った先進的な“もの”であった。現在では付加価値の低い“物”になってしまい、それを底上げしようと「3D」などの付加価値を持たせたのだが、それも長続きしそうもない。有機ELテレビも同じ運命をたどるのだろうか。テレビメーカーだけでクローズした価値提供には限界が見えている。

 日本経済新聞2012年1月14日付け「企業総合面」の「米家電見本市閉幕記事」によれば、家庭内の全電化製品をコントロールする「情報ハブ」テレビを、中国メーカーが提案している。日本企業も同じことを考えているが、中国企業の「経営の意思決定の速さなど機動力の高さ」が「既存の大手メーカーをおびやかしつつある」という。日本企業が留意すべきは、この最後の1点である。

 家電製品の世界も、家電(機器)+ICT+社会インフラ(エネルギ・環境)という形の総合的ビジネスへの進化が予測されている。これは1社でカバーしきれるものではなく、本当に“国をあげて”の“もの・ことづくり”戦略を策定して実行し、日本が復活を果たすための道筋を付けるべき時期に来ていると感じている。

◇複数社協業型(垂直統合型)の“もの・ことづくり”