中小企業ほどブランド経営の意識を

 以上、2003年以降ほんの10年足らずの間のLenovoの事業とブランドのグローバル化の流れの大きなポイントだけをかいつまんで紹介しましたが、大事なことは彼らの活動が「事業戦略」と「ブランド戦略」の両面をきちんとカバーし、また両方に適切な投資がなされていることです。いつも言うように、事業戦略とブランド戦略は一枚岩でなくてはなりません。海外市場1カ国1カ国での事業の成功の集積がなければグローバルブランドになど成り得ません。一方で、製品に冠せられたブランドにグローバルに一貫性を持つ魅力的な価値観が込められていなければ競合ブランドとの戦いに勝つことはできませんし、長期的に最も重要な、企業に対する信頼感というものも醸成されません。

 ブランド戦略に基づいた事業戦略はどのような歴史のどのような規模の組織にも有用ですが、ブランド戦略が最も効果を発揮するのは創業期を生き延びて成長期に入りつつある、比較的小さな組織です。そこに「夢を見続ける」リーダーが存在し、ビジョンと目標を仲間と共有していけば早晩それが現実のものとなる。現在世界でニッポンの「顔」となっているようなグローバルブランドも、もとをただせば皆そのような意気盛んな町工場だったではありませんか。そこには自分の夢には頑固だが人としてとても魅力的なリーダーと、一緒に夢見てがむしゃらに働いてくれる良い社員が集まっていたではありませんか。

 規模の小さな企業ほどブランド経営の意識を高めていただきたいのです。事業が発展し、組織が肥大化した後ではもう手遅れなのです。組織が肥大化すると必ず細分化します。すると経営管理を専門にサポートする人の人数が増え、また企業トップがそれらの官僚的な人材を重用するようになります。やがて官僚的人材達の間には、自分たちが組織階層の上位にいるという錯覚と最前線で汗水流す人々を軽視する風潮が生まれてきます。組織のトップに現場感覚が薄れてくると、彼らの仕事はP/Lと内部統制とリスク回避が中心になり、もはや経営に「夢」など入り込む余地がなくなります。幹部会議で夢を語り合っている場面など想像すらできなくなります。しかし現実に日本の多くの大企業はこんな雰囲気になっているのではないでしょうか。経営会議やら統括会議やらで人の顔色を伺いながら根回しと多数決で針路を決めるような組織に、夢を見続ける力などあるはずがないのです。極論すればビジョンと意思の発露が企業や事業の核心であり、それ以外はいくらでもアウトソーシングで実行可能なのが現代のビジネスなのです。

 ナイキの創始者フィル・ナイトも、スターバックスのハワード・シュルツも、もちろんスティーブ・ジョブスも皆そうしたタイプのリーダー達です。夢を(1)見る、(2)語る、(3)実行する。まずは「自分の夢が何なのか。何を達成してどう世の中に貢献していくのか」をもう一度よく思い起こし、そして仲間や外部のステークホルダー達にわかりやすく繰り返し繰り返し語りかけ、粘り強く実行していく。そして何より大事なのは夢を「見続ける」力、実現するまで飽かず夢見続ける力です。これがブランド創りの最初にして最大の課題なのです。