ビジョンを示し、みんなの力で実現する

 中国の春節休暇を利用してこの原稿を書いています。元旦に相当する1月23日、私は仲の良い北京大学ジャーナリズム&コミュニケーション学院教授の陳剛氏のお誘いを受け、これまた友人の清華大学美術学院教授の馬泉氏たちと正月昼食会を楽しみました。

 陳剛教授は1月9日に「クリエーティブ・コミュニケーション・マネジメント」と題した新著を発表したばかりです。世界最多のインターネット&モバイル利用者を持つ中国で広告キャンペーンを組み立てる際のコンタクトポイント戦略をテーマとしたこの本の序文を書いているのは、IMC(Integrated Marketing Communications)の提唱者として有名なノースウェスタン大学名誉教授のドン・シュルツです。陳剛教授はこの世界のマーケティング界の大御所と大変親しい関係にあります。

 片や馬泉教授も4月に都市景観デザインに関する著書を出版します。沿岸部から内陸部に至るまで大規模都市開発が続く中国の都市デザインを、屋外広告を含む景観や都市内情報システムの観点から多くのケースを交えて実戦的に解説する本だと聞いています。中国の先生方の研究はグローバルにキャッチアップしてきており、そして中国の社会やビジネスの水準向上のための精力的な発信を続けています。私も大いに刺激を受けています。

 さて、日本時間の1月25日、アメリカではオバマ大統領が議会で一般教書演説を行いました。その主義主張への賛否はいろいろとあるでしょうが、いつもながらのスピーチの上手さには脱帽です。彼のスピーチの内容・構成・デリバリー(実演)は政治家のみならず企業やNPOのリーダーたちに大いに参考になるものだと思います。何でもそうですが、誰かがやったことをそのままコピーするのは違法ですが、優れたポイントを抽出して自分の実践に生かすことは「ベンチマーキング」と呼ばれ、企業の枠を超えて産業や社会全体がレベルアップするために奨励される行為です。

 オバマ演説の特長をピックアップしてみます。(1)まず、話の中に具体性を盛り込んでいます。大統領の演説は大所高所からの総論に終始することが多いのですが、彼の話の中には固有名詞と数字と実例が多く盛り込まれています。具体的な企業の活動や時にはある個人のエピソードなどを交えて話に現実味と説得性を加えていきます。(2)さらに、自分が何をやりたいのか、また聴衆にどう協力してほしいのかを具体的に説明しています。「自分はこれをやるから、皆さんにはこのことをお願いしたい」という話法で、聴衆の側に「自分ゴト化」を促します。(3)そして、話の中心は常に将来へ向けたビジョンです。過去の経緯や現実の困難な状況はさらっとおさらいした上で、皆の目をアメリカの将来像へと向かわせています。(4)全体を通して、とてもencouragingな論調となっています。聴衆である議員やアメリカ国民に向けて感謝と叱咤激励を情熱的にちりばめながらこの国が持っているチャンスを強調して参加と団結と一体感を醸成しています。(5)演説のトーンはあくまで力強く、揺るぎなき確信に満ち、ただ前だけを向いています。聴衆と息を合わせ、時にはたたみかけ、時には反応を待ち、会場全体を支配していきます。

 どうでしょう。国家の経営戦略を語るオバマ演説は、ビジネスを引っ張る経営トップや、あるいは政治やNPOのリーダーたちが仲間の結束を促し、そして外部へ向けて発信・説得していく際の最良のお手本と言えるのではないでしょうか。現状の問題点より将来の機会に重点を置き、未来へ向けたビジョンの実現のみに集中して、失敗を恐れず自らを変革し続けていく。これからお話しする中国のPC/デジタルモバイル機器メーカー「Lenovo」の成功の秘密も突き詰めればその一点に集約されるのです。

夢を見続ける力

 Lenovo(聯想)は現在世界シェアNo.2のPCメーカーです。ブランド戦略と事業戦略は表裏一体ですから「事業展開のグローバル化」と「ブランドのグローバル化」は統合的に行なわれなければなりません。まず、Lenovoが事業とブランドのグローバル化にどのように取り組んでいるのか、順を追ってご紹介しましょう。

 2003年、聯想は英文社名をLegendからLenovoへと変更しました。それは、Legendという一般名詞では世界各国での商標登録が困難だったからです。そこで彼らは海外の一流ブランドコンサルティング会社を起用してオリジナルの名称を開発しました。ラテン語風の造語「Lenovo」からは「新しい」という意味が伝わってきます。ここで重要なのは、2003年の時点で、聯想が「グローバル市場に進出してグローバルで著名なブランドになる」というビジョンを明確に描いていた、ということです。でなければわざわざ高価なコンサルティング会社を雇って新規に英文名称を創造することなどしないでしょう。