少し前ですが、日経産業新聞に「フィアット、新労働協約、全工場で合意、生産性改善への協力盛る---一部労組は拒否」(2011年12月19日付)という記事が掲載されました。これを読んで筆者は「さもありなん」と思いました。日本人の感覚だと、従業員が職場の生産性改善に協力するのは普通に思えます。筆者も半年前はそう思っていました。

 その考えが変わったのは、編集担当として『新興国に最強工場をつくる』(佐々木久臣著)の発行にかかわったからです。著者の佐々木氏は、いすゞ自動車出身で、日本はもちろん、欧州や米国、中国、ASEAN加盟国などで、経営者や指導者として実際に工場を運営してきた方です。

 佐々木氏は長年の経験から次のように指摘します。「(海外では、決められた仕事以外は)自分の仕事ではない。従って、どれだけ不良品が出ようが深刻な問題が起きようが、『既定時間働いて賃金が同じなら楽な方がいい』と考える従業員の方が多い。メーカーにとって重要な顧客満足について考えるのは別の誰かの仕事で、『自分の仕事ではない』のである。注意すべきは、海外ではこの考え方は決して職業倫理に反するものではなく、ごく普通の考え方であることだ」(同書)。

 日経産業新聞の記事にも、イタリアFiat社の工場では「サッカーの人気試合があると欠勤する従業員が増えるなど恒常的に士気の低さが問題になっていた」と紹介されています。欠勤者が多く、生産に支障が出てもそれは別の誰かが考えることという感覚なのかもしれません。