44年の歴史上、過去最高の来場者数を記録した世界最大の家電展示会「2012 International CES」。今回のCESで最も注目を集めた技術の一つが、第1回のCESの際に既に実用化されていた、テレビ用リモコンの代替技術の提案です。

 世界最初のテレビ用無線リモコンは、米Zenith Electronics社によって1956年に発売されたそうです。機能は大幅に追加されたとはいえ、50年以上も基本形は変わっていません。それ自体はすごいことですが、逆にみればリモコンは“ロスト・ワールド”とも言えます。

 それが昨今の「スマートテレビ」という新潮流を前に、いよいよ進化を迫られています。スマートテレビでは、ユーザーが楽しめるコンテンツの選択肢が急増します。画面上には、テレビの放送番組の他に、インターネットの映像コンテンツやアプリケーション・ソフトウエアのアイコンが多数表示されるようになります。これらを既存のリモコンで操作するのは、ユーザーに苦痛を強いることになるでしょう。携帯電話機が「タッチ入力」で大きく変わったように、テレビ用リモコンにもいよいよ引導を渡す時がきた、と業界関係者の多くがみているのです。

 リモコン代替の技術として大きな注目を集めているのが、コントローラなどを持たずに手の動きでテレビを操作する「ジェスチャー入力」技術です。起爆剤となったのは、米Microsoft社がゲーム機「Xbox 360」向けに販売しているジェスチャー入力装置「Kinect」です。Kinectは発売からわずか1年強で1800万台を出荷する大ヒット商品になりました。この成功が、Kinectの中核である距離画像センサのコストを短期間に大幅に押し下げ、応用展開の幅が広がっているのです。

 Kinect向けに距離画像センサを開発するイスラエルPrimeSense社は、今回のCESでジェスチャー入力に対応した新しいテレビ向けUI(ユーザー・インタフェース)をデモしました。韓国LG Electronics社は、PrimeSense社の距離画像センサを搭載した“Kinect似”のジェスチャー入力装置を、2012年内にテレビのオプション品として発売する予定です。

 また韓国Samsung Electronics社は、2012年春に発売予定のテレビの上位機種に、ジェスチャー入力機能を搭載しました。同社の機能は、距離画像センサを使うものではなく、テレビに搭載するCMOSセンサを使ってユーザーの手の動きを画像認識するものです。Samsung社のデモには、連日、長蛇の列ができました。

 リモコン代替を狙っている技術は、人間の手によるジェスチャー入力だけではありません。音声入力、視線入力、そしてリモコンに加速度、角速度など動きセンサを搭載して、リモコンを持った手でジェスチャーをして入力する技術など、数多くの提案があります。共通しているのは、ボタン入力よりも人間にとって自然な動作で入力できる「NUI(Natural User Interface)」と呼ばれる技術であることです。

 現時点ではどの技術にも一長一短があり、正直、絶対的な本命は見えません。例えば、距離画像センサを使ったジェスチャー入力技術は、リモコンなどの装置を持たなくてよい上、手の動きを高精度に認識できる利点があります。一方で、テレビに組み込むにはまだコストがかなり高いなどの欠点があります。

 Samsung社は今回発表したジェスチャー入力機能に対応したテレビに、音声入力機能も搭載しました。個人的には、このように一つの入力技術が勝ち残るのではなく、適材適所で複数の入力技術を併用するケースが多くなると思います。いずれにせよ、今後、リモコン代替を目指す「入力革命」から目が離せません。