写真1●世界最大級のデジタル家電の展示会「2012 International CES」の基調講演に登壇した独ダイムラーのディーター・ツェッチェ会長
写真1●世界最大級のデジタル家電の展示会「2012 International CES」の基調講演に登壇した独ダイムラーのディーター・ツェッチェ会長
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クラウド側のデータ収集・分析機能が重要に

 こうしたスマートカーの価値は、クラウド側から提供されるサービスや情報の充実度合いで大きく左右される。すなわち、車載情報システム自体にどれだけ優れたユーザーインターフェースを用意しても、提供できる情報が少なければ顧客満足は得られない。クラウド側に、クルマに乗っている人が欲しがる街の情報がどれだけ蓄積されていて、それを的確に提供できるかが問われる。

 それを実現するのが、機械やセンサーから人手を介さずに自動的に情報を収集・分析し、それを基に機器などを制御できるようにする「M2M(マシン・ツー・マシン)クラウドサービス」と呼ばれるものだ(表2)。

表2●スマートカーなどを対象にしたM2Mクラウドサービスの例
会社名 サービス名サービスの概要
富士通急ブレーキ多発地点マップサービス、E&S-Benchmark(エコアンドセーフティーベンチマーク)走行履歴や運転速度の実測値といった大量のデータを基に、急ブレーキが多発している場所を地図に表示したり、ドライバーの運転状況を環境性・安全性の両面から「見える化」したりする。2012年1月13日~3月30日にかけて、運送会社の参加を得て、サービスの有効性を実地検証する。
NECとSAPジャパンクラウド上での課金サービスSAPの課金システム「Convergent Charging」を利用し、NECのクラウドサービスとして2012年4月から提供する。M2Mサービスの「CONNEXIVE」やスマートフォン向けモバイルクラウド基盤でも利用する。両社のデータセンターを使いグローバルに展開する計画。

 その一例が、富士通が2012年1月13日~3月30日にかけて実地検証する「急ブレーキ多発地点マップサービス」と「E&S-Benchmark(エコアンドセーフティー ベンチマーク)」だ。

 急ブレーキ多発地点マップサービスは、自動車のブレーキの作動状況をセンサーで把握し、これを位置情報と合わせてクラウド側に送信・蓄積していくもの。これを多数集計していくと、急ブレーキが多発している地点が判明するので、これを地図情報として提供する。将来は、多発地点に近づいた際に「この先、急ブレーキ多発地点です」といった音声案内が可能になろう。

 E&S-Benchmarkは、走行速度の実測値などから、エコ運転の品質を車や運転者ごとに“見える化”するもの。ダイムラー会長のツェッチェ氏が「情報の自由」と表現した機能を先取るサービスといえる。

 またNECは1月16日、クラウド上における課金サービスの提供に向けてSAPジャパンとの業務提携を発表した。自動車に特化したサービスではないが、EVの充電設備の利用料金徴収などには不可欠な機能になる。NECとSAPは、それぞれが保有するデータセンターを使い、グローバルにサービスを展開したい考えだ。

 課金のためのソフトを提供するSAPは、携帯電話会社やオンラインゲーム会社なども顧客に抱えている。そこでは、携帯電話のローミングのように、実際に利用したキャリアを問わず、主契約先が料金を一括請求する仕組みも用意している。これをEVに適用すれば、移動中に異なる企業が運営する充電設備を利用しても、日常的に利用している企業に料金を一括して支払えるといったことが可能になる。

“走る・止まる・曲がる”に続く新機能をクラウドで実現

 自動車とICTといえば、これまでは安心・安全を高めるために、“走る・止まる・曲がる”といった基本機能を最適化するための組み込みソフトの開発力が重視されてきた。同領域では、家電製品を含め日本が強みを発揮してきた。

 しかし、自動車の価値をクラウド発のサービスの組み合わせで大きく向上させようとする今後については、ネットワークやクラウドの領域での開発・運用力や、種々のサービスのプロデュース能力が問われることになる。このことは携帯電話市場におけるスマートフォンの普及をみても明らかだ。

 こうして自動車の開発競争が「クラウド一体型」になったことに応じて、自動車メーカー各社はICTベンダーと積極的に提携し始めた。例えばフォードは米マイクロソフトと、トヨタ自動車はマイクロソフトや米セールスフォース・ドットコムと、それぞれ提携し、自動車向けサービスのあり方を探る。ダイムラーも今回のCESで、米グーグルとの提携を発表した。

 スマートカーが象徴するように、ものづくりの競争力を高めるためには、ICT業界とのより密接な連携が不可欠になる。同時に、ICT業界には、グローバルなクラウド・サービスの競争力を磨くことが強く求められている。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。