「奥数」(AO SHU)とは、「数学五輪」の中国語である(五輪の英単語となるOlympicの頭文字“O”の中国語の当て字は“奥”である)。数学五輪は、国際数学オリンピック(International Mathematical Olympiad、IMO)の略称で、数学の問題を解く能力を競う毎年行われる高校生を対象とした国際大会である。日本ではあまり知られていないが、中国では奥数の勉強をターゲットとする塾や“部活”などのスクールや訓練クラスが数多くあり、参加者は高校生と中学生どころか小学生にまで広がっている。子供の奥数の勉強をサポートするために、親までも巻き込まれているのが実情だ。教育界に留まらない、大きな社会現象となり注目されている。今回は奥数から、イノベーションの創出にもっとも重要となる創造性について議論する。

社会現象となった「奥数」

 Google日本で「数学五輪」を検索すると約5万5700件、Google中国で「奥数」を検索すると約1500万件、Baidu(中国最大の検索サイト)で「奥数」を検索すると約2980万件それぞれヒットする。この数字の差からも歴然だが、中国と日本とでは関心度や浸透度が全く違うレベルといってよいだろう。なぜ中国では、こんなに人気があるだろうか。それには、複雑な原因があると思われる。

 歴史から見ると、中国は昔から儒教が中心であり、教育を通じて出世するという意識が強い。現代は市場経済への移行により、教育が市場経済の一部として産業化された。また、「一人っ子政策」により、将来の希望が一人の子供に託されるため、多くのお金が教育に使われる「英才教育」が中国ではさらに広がっている。一方、社会では賄賂や腐敗が存在するので、推薦や試験なしの人材選抜制度が成り立ちにくい。奥数は点数で差が分かるので、他の選抜基準より信用度や公平性が高い。また、実施しやすいのも人気を後押ししている一つの原因ではないかと見られる。

 毎年の国際大会以外にも、中国では全国レベル、県や市のレベルなど、奥数に関するコンテストが多く開かれている。コンテストでの奥数の成績は、「国語」や「数学」などの受験項目以外の特別な選考基準として、有名校で採用されている。大学入学試験が免除されるケースさえある。奥数の成績を良くして有名校に入る可能性を高めるため、奥数を勉強するスクールや訓練クラスなどが沢山作られた。教育関連のビジネスの一部として、大きく発展してきた。

 大学受験のスタートラインである中学校受験に遅れないように、多くの学校、多くの小学生が仕方なく奥数の勉強に参加せざるを得ない状況だ。親としては、子供が参加すれば楽しい子供時代がなくなるし、一方で参加しないと受験で負けて子供の未来がなくなる、といった悩みに陥っている。

数多くの奥数サイトの一つhttp://www.aoshu.com
1年生~6年生を対象としており、小学生向けの題目ライブラリ、コンテスト情報、スクール情報、広告、カテゴリごとの特別講義などさまざま関連情報が掲載されている。

 このサイトから二つ問題を選んでみた。小学校の中学年向けの問題だが、是非読者の皆様にもトライしてもらいたい。

(1)リンゴをAグループとBグループの学生に分ける。全員へ平均に分けると、一人は6個もらえる。Aグループだけ平均に分けると、一人は10個をもらえる。Bグループだけ平均に分けるとき、一人は何個もらえるか。

(2)1+2+22+23+24+25+26+27+28+29+210=?

(答えは、本文の最後に掲載)