私は工学部を卒業してから20年が経ちます。2003年にMBAを取っているので、MBAの卒業からは8年。その間、同級生がいろいろな会社に行き、様々な生きざまを見てきました。

 私の感想にしか過ぎませんが、一見、安定していて、全く人が辞めない会社ほど実は危険だと感じています。というのも、安定して見える会社に居ることで、内向きになったり、安心してしまい、積極的に自分を磨くことが難しい。

 人は周囲の環境に強く影響を受けます。少なくとも、私自身は怠け者なので、厳しい環境に居ないと自分を磨こうとしない。ですから、自分も安定した立場になるのが、大変危険だと思っています。

 私が東芝に就職した1993年は経済バブルが崩壊して、東京電力のような安定した電力会社が人気がありました。その後も電力会社は安定しているので、同級生たちは辞めずに現在に至っています。

 一方、銀行や証券会社などの金融機関は、大蔵省の「護送船団方式」で安定していると思われたものの、バブル崩壊や金融自由化により、会社の統廃合が進みました。その結果、金融機関に就職した同級生の多くは外資系企業に転職したり、買収により会社が変わる経験をしました。

 MBAでは、多くの同級生が転職活動をするためにインターンシップをする一方、電力会社や通信キャリアなど安定した優良企業の同級生たちは、アメリカの生活を満喫していた人が多かったと記憶しています。

 こうした、安定した企業が就職から定年までの30年以上の間もてば、それはそれで、良い会社人生だと思います。しかし、実際のところは、技術の進歩やグローバル化で、一見安定した企業が、窮地に陥ることも多いのではないでしょうか。

 同期の仲間の様々な変遷を見ていると、本人の意思とは関係なく、金融業界のように比較的若い時に、業界再編や転職を経験した人たちが、危機感を持って自分を磨き、しぶとく生き残っているように感じます。

 一方、一見安定して見える会社に就職すると、仕事の内容も社内調整のような内向きになりがちですし、職場の周囲の危機感も薄い。わざわざ転職など考えなくても職にあぶれないと思ってしまうと、自主的に社外で通じるスキルを磨くことは難しい。

 そうして生きているうちに、ある時、会社の経営が悪化して転職しなければならなくなる。でも、気付いたら、自分には社外で通用するスキルが無かった、ということになりかねません。ですから、できるだけ若い時から変化に富んだ環境に慣れておき、自分を鍛えておいた方が良いのではないでしょうか。

 もっとも、年を取ったからといって、変われないわけではありません。仕事のやり方や考え方が確立していくと、変化を受け入れることは段々難しくなってきます。しかし、かなりの年齢になってから、会社の買収や転職といった大きな環境変化に遭遇し、柔軟に変わった方々も多くいます。