SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)デバイスは、プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)と電気自動車(EV)の販売台数が急増する時期に照準を合わせて展開されそうだと仏Yole Developpement社の市場アナリストは予想する。

 もしあなたが、EVがすでに完成された技術であると考えているのなら、もう一度考え直してみる必要があるだろう。EVはいまだ成長カーブの初期にあり、2012年から2020年の間に全世界での売上げ台数は7倍になるとYole Developpementの最新レポート「Power Electronics for Hybrid & Electric Vehicles」は予想する。またレポートによれば、ハイブリッド車(HEV)とEVの販売台数は2020年には合計で年間5600万台に達する。そして、EVを商業的に成功させるために重要だと長い間考えられてきたSiCやGaNデバイスは、いまだにEVに利用されていない。

Siトランジスタは、SiCとGaNよりも早くEVのインバータ向けに普及するが、SiCとGaNはEVの大規模商用化の時期には間に合うだろう。(図はYole Developpement)
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 その理由の一つは、現在人気のHEVのタイプにある。2012年に売れると予想されている800万台のEV及びHEVのうち、700万台がマイルド・ハイブリッド車とマイクロ・ハイブリッド車になるだろう。これらは、ブレーキ使用時に失われる運動エネルギーを回生して二次電池を充電する。マイクロ・ハイブリッド車では、この電力を使用して車載電子機器を駆動する。マイルド・ハイブリッド車では、この電力はさらに内燃機関を補助する小型モーターの駆動にも用いられるが、この電力だけで車を駆動することはできない。どちらのケースにおいても、充放電はDC-DCブースト・コンバータを用いて行われ、そのコンバータには特に性能の高い部品は用いられない。

 残りの100万台には、純粋なEVや二次電池のみで駆動可能なPHEVやHEVが含まれる。こういった車においては、電気駆動エンジンの速度は、二次電池からのDC電力をACに変換する三相インバータによってコントロールされる。このインバータには、現在80k-250kWの電力、600-1200Vの電圧でスイッチング機能を果たすトランジスタを使用する。また、このトランジスタには単にこの機能を果たすだけではなく、安価で出力密度が高いことも要求される。現在、シリコン(Si)IGBTは価格面でこの要求に応えられていない。

 SiCとGaNはSiよりも高いスイッチング効率を実現する材料として注目されているが、これは自動車分野においては、それほど重要な要素ではない。それでも、SiCとGaNは高頻度でのスイッチングを可能にし、またキャパシターやレジスタ、インダクタといった受動部品によるフィルタリングをあまり必要としない交流波形をモータの駆動用に供給することができる。受動部品の数を減らしたりサイズを小さくしたりすることができれば、高出力密度をやコスト減につながる。

 そして、SiCとGaNはSiよりも高い電圧、つまり低い電流で動作する。それによって車載電子機器の安全性が高まり、トランジスタのダイ・サイズを小さくすることができる。さらに、それらは200℃までの温度で動作するため、HEVにおいて必要な冷却量を最小化できる。その結果、1つの冷却システムをインバータと内燃機関の両方に使用することができる。IGBTを使用したインバータの場合は、インバータと内燃機関にそれぞれ冷却システムが必要になる。それにインバータの出力密度が高まることを考慮に入れると、そういったメリットはコストを減少させ、新技術によるコスト増を吸収することができる。

 こういった長所はあるものの、SiCとGaNは広範囲に応用させるには、まだ価格が高すぎる。Yole Developpementによる予想では、SiCデバイスは2014年からEV/HEV用のインバータに使われ始め、同年にこの分野で150万ドルの収益を上げる。一方、GaNデバイスは2015年に使用が開始され、同年に1800万ドルの収益を上げる。SiCとGaNの導入は、PHEVとEVが大規模に商用化されると予想されている2013年の翌年から始まることになる。自動車向けパワーエレクトロニクスのマーケットでは、マイルド・ハイブリッド車とマイクロ・ハイブリッド車向けが主流でありつづけるものの、HEVとPHEV、EVの年間売上げ台数は増え続け、2020年に1100万台に達するだろう。こういった自動車のインバータ向けに供給が間に合うため、SiCとGaNは自動車業界で普及が進むと考えられる。