現在でも省全体のGDPは2010年の統計で9088億元、全国31の省・直轄市・自治区のうち21位とあまりパッとしない。ただ過去10年の全国的な経済成長で増大した電力需要により、火力発電用の石炭需要が増加。これにより関連業者や石炭のブローカーなど局地的にバブル経済を謳歌している人々がいる。

 さらに1990年代後半から2000年代にかけて高速道路や中国版新幹線「動車組」をはじめとする交通インフラの整備が進み、1980年代末には鉄道で10時間かかっていた太原―北京間の所要時間は新幹線でわずか3時間半と飛躍的に短縮した。この結果、山西省は北京の「奥座敷」の役割を果たすことになり、省都の太原は全国でも有数の娯楽産業が発達した街として注目されるという現象も起こった。北京との間を結ぶ高速道路が開通したばかりのころ、娯楽産業に対する取り締まりがあると、夜の街で働く女性たちが一斉に億元単位の預金を引き出し他の省へ避難しようとするため、その度に太原の銀行では取り付け騒ぎが起こるといううわさがまことしやかに流れたりしたものだ。

 フォックスコンがiPhone用部品の生産拠点を置く晋城は、北京よりもむしろ河南省の鄭州に近い。晋城、鄭州、洛陽の間はそれぞれ約100キロの位置関係にある。

 鄭州のiPhone組み立て基地について、台湾紙『経済日報』(12月28日付)は、フォックスコンが鄭州の生産拠点「富士康科技園」で目下、既に10万人の従業員を雇用し、毎日20万台のiPhoneを生産していると報道。それを今後、従業員を20万人に増やすことで日産を40万台に引き上げることを計画しているという。

 鄭州の薛雲偉副市長は、「鄭州は大量の労働力を持ち、しかもコストは豊かな沿海都市に比べて3分の2に過ぎない」と強調。「上海では1500元の月給で働こうという人はほとんどいないが、鄭州には大勢いる」として、安い労働力が鄭州の魅力だとしている。

 先の太行日報は消息筋の話として、フォックスコンが既に次世代機iPhone 5について、出荷量全体の85%に当たる5700万台分をAppleから受注したと報じている。同紙は発売の時期については触れていないが、これがメード・イン河南・山西の初めてのiPhoneになるのだろうか。

 山西省は陝西、山東などと並ぶ紅富士の産地だ。フォックスコンの晋城工場では既に、工員の募集を始めたとのこと。採用の決まった工員たちはこの春節、年貨で買った地元山西の紅富士をかじりながら、「新しい年にはApple公司のiPhoneを作るのか」と思いを巡らせているのかもしれない。