「もうさ、テレビはチューナー無しでいいんじゃない。Wi-Fiの送受信機能とビデオ・デコーダだけあれば、済むんじゃないか。無線LAN付きディスプレイで十分だよ」――。

 昨年末、取材先の方々との忘年会の席上、某半導体メーカーで役員を務めるAさんから、このような発言が飛び出しました。テレビにWebブラウザーを搭載し、インターネット接続機能を拡張する「スマートテレビ」が注目を集めておりますが、それならコンテンツも含めて、すべて通信網で送ってしまえばいいじゃないか――。そうした発想に基づくものです。

テレビ・ハードウエアの今後の付加価値とは?

 この発言、Aさんは以前から主張しておられ、私が聞いたのはこれで3回目くらいでしょうか。根底にあるのは、テレビをもっと安くして、究極的には無料で配れるような機器にしてしまおう、というものです。「テレビは単なる大画面表示装置にしてしまい、コンテンツのやりとりは有線通信網もしくはスマートフォン経由でやればいい」(Aさん)。こうなれば、テレビ(ディスプレイ)をもっと安くでき、「スマートフォンを契約すれば、もれなくテレビがついてくる、といったキャンペーンもできるのでは」(Aさん)…そういうメッセージでした。

 Aさんがこの趣旨のお話をされていたのは、二つの背景からです。一つは、「もうテレビというハードウエアに付加価値を期待するのは難しいのではないか」ということ。もう一つは「動画配信サービスが進化しており、端末側にビデオ・デコーダさえあれば処理できるようなサービスまで登場していること」です。

 前者に関しては、多くのテレビ・メーカーが事業で苦戦する現状を見て、それならいっそのことテレビというハードウエアの付加価値で勝負するのはあきらめて、ソフトウエアやサービスで収益を得るべき、という考え方です。「仮にスマートテレビの時代に入り、多数のメーカーがスマートテレビを作ったら、どこで差異化するのか。AndroidスマートフォンでSamsung社が強者になったように、スマートテレビはおそらく韓国メーカーが全力で作ってくる。そのとき日本メーカーは、果たしてどのような付加価値で勝負するのか。あるいは勝負できるのか。もし勝負できないのだったら、そこでの競争は諦めて、ソフトウエアやサービスなどで収益を得る方向性を模索するべき」――。こうした問題意識が込められているようです。