新年早々、昨年の話を持ち出して恐縮ですが、2011年11月27日~12月2日に米国シカゴで開催された「北米放射線学会(Radiological Society of North America:RSNA) 2011」を取材してきました。RSNAは放射線医療に関する世界最大級の国際会議であり、今回で97回目という長い歴史を持ちます。参加者は例年6万人前後、同会議の開催時期には、シカゴ中のホテルが参加者の宿泊予約で埋め尽くされるといわれます。

 今回、同会議に併設された展示会では、700社に迫る医療機器メーカーがブースを構えました。そこに出展された最新のX線CT装置などを中心に取材しました。同展示会ではここ数年、X線CT装置の低被曝化が大きなトレンドとなりつつありましたが、今回はこれまで以上に低被曝を訴求する展示が多かったようです。その背景の一つが、東日本大震災に端を発する原発事故により、人口当たりのX線CT装置の普及率が世界でも際立って高い日本において、医療被曝への関心が急速に高まったことでした。

 震災後の報道などでは、X線CT検査の被曝量として「6.9mSv」という値がしばしば象徴的に使われました。しかし、今回のRSNAに各社が出展した最先端のCT装置では、被曝量はこれよりもずっと低くなっていることが見て取れました。多くのケースで3mSv以下、撮影部位や条件によってはサブmSv(1mSv未満)での撮影が可能となってきたようです。これを可能にしているのが、画像再構成技術やX線源技術、検出器技術などの飛躍的な進化です。例えば、米GE Healthcare社が披露した画像再構成技術は、デジタル・カメラの「手ぶれ補正」に近い発想を取り入れることにより、心臓など撮影中に動く臓器を、2mSv程度で精度良く撮影することを可能にしたものです。

 低被曝技術を競うX線CT装置メーカー各社にとって、今後の大きな目標となりそうなのが、「レントゲン撮影並み」、すなわち0.05m~0.1mSvへの低被曝化です。その決め手になるとされる次世代技術を、RSNAの展示会場で複数のCT装置メーカーの担当者から耳にしました。X線を波としてではなく粒子として捕捉する「フォトン・カウンティング(photon counting)」と呼ばれる手法です。X線発生源などを含む大幅な装置改変が必要になるため、まだ実機が展示される状況には至っていませんでしたが、今後数年以内に試作機が出てくる可能性は十分にありそうです。

 こうした技術の実用化により、「それほど遠くない将来、レントゲン撮影並みの被曝量を実現できそうだ」(大手X線CT装置メーカーの担当者)というのが、業界に共通する見解です。ここまで被曝量が下がれば、定期健診の胸部撮影などにX線CTを使うことが現実味を帯びるでしょう。そうなれば、レントゲン撮影では見落とされやすかった疾患も、定期健診でスクリーニングできるようになるでしょう。(ただし、X線CTを定期健診に用いることについては、微小な良性腫瘍を過剰に検出してしまうことなどがデメリットとして指摘されているようです。有用性についてのエビデンスを、対象とする疾患ごとに重ねていく必要がありそうです)。

 RSNAでの取材内容の詳細については、本誌2012年1月9日号にレポート記事を掲載した他、本年2月に掲載予定の医療関連の特集記事でも紹介する予定です。ご一読いただけましたら幸いです。最後に一つ、宣伝をお許しください。本年1月24日(火)に、都内でNEアカデミー「アナログCMOS応用回路の基礎知識」を開催します。講師は、アナログ半導体の権威である東京工業大学大学院 教授の松澤昭氏。“アナログ回路設計の初学者がその勘所を理解できる”ことを目指したセミナーです。ぜひ足をお運びいただけましたら幸いです。