特許技術の利点。特許技術を使わない場合(左側)には余分な損失が発生していたが、特許技術によってこの損失が減るという。(図:ローム)
特許技術の利点。特許技術を使わない場合(左側)には余分な損失が発生していたが、特許技術によってこの損失が減るという。(図:ローム)
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 年間2億台を超えるまで拡大した液晶テレビの世界市場。一時期ほどの成長力は見られないものの、新興国市場への普及や先進諸国での買い替え需要などで、今後も市場の成長が続くとみられている。この液晶テレビで今、注目されているのがバックライト光源のLED化である。出荷台数ベースでみた液晶テレビのLED化率は、2011年で約47%(米DisplaySearch社の推定)、2012年以降はLEDバックライトが過半となり、さらに比率が高まると予測されている。

 この勢いに乗った形で、LEDを駆動および制御するLEDドライバICの出荷が伸びている。液晶テレビ向けのLEDドライバIC市場で存在感を増しているのがロームだ。同社によれば、液晶テレビの出荷台数ベースで見たローム製LEDドライバICの搭載比率は直近の調査で約30%と「トップ・クラス」(同社)である。液晶テレビ市場でシェア上位のあるメーカーに関しては、出荷するLEDバックライト搭載液晶テレビの70%程度でローム製のLEDドライバICが使われているという。中国の大手メーカーの液晶テレビでは、ローム製LEDドライバICの搭載比率が80%近くとさらに高いところがある他、100%に達するメーカーもあるとする。

 なぜ、ロームはこれほど高いシェアを獲得しているのか。かつては液晶テレビのバックライト光源で主流だった冷陰極蛍光管(CCFL)のドライバICは同社を含め数社に限られていたのでLED化への移行の状況をいち早く把握でき、LEDドライバICの開発や顧客をフォローする体制を早期に整えることができたことはあるだろう。だが、ロームが保有する特許技術も重要な役割を担っていることが同社への取材で分かった。

 ロームが保有する特許技術は、LEDドライバ回路からLEDに供給する電源電圧を最適化し、余分な電力損失を削減することで、LEDバックライト・システム全体の電力効率を高めるというもの。具体的には、複数個を直列でつないだLED列と、LED列の後段にある調光器との接続点の電圧をモニターし、LED列に印加する電圧(負荷電圧)を制御する。日本では2003年に出願し、2006年に登録された(特許番号は、特許第3755770号)。日本のみならず、米国など海外でも特許が成立しているとする。

 ロームによれば、この特許技術は液晶テレビに限らず、携帯機器などLEDバックライトで標準的に使われている手法だと主張する。同社がテレビ・メーカーなどと話す機会がある度に、この特許技術の重要性を伝えてきたという。ロームは特許侵害など、他のドライバICメーカーに対する権利主張は現段階で行っていない。だが、テレビ・メーカーにとっては、仮にドライバIC関連で訴訟が起きたときに係争に巻き込まれない“保険”になるとの考えが、ローム製品の採用を広げているようだ。

海外での特許は権利範囲がさらに広く


 LEDバックライト関連では「基本特許の一つ」とロームが主張する、特許第3755770号の効果をもう少し詳しく見ていこう。LEDは、ある電圧を超えると急激に電流が流れ始めて発光するようになる。この“ある電圧”は順方向電圧(Vf)と呼ばれる。Vfには±10%以上のバラつきがあり、これがバックライト・システムの電力効率を高める際に足かせになっている。液晶テレビではシステムの消費電力の70%程度がバックライトによるものであり、足かせは少しでも減らしたいところだ。ロームの特許は、足かせ軽減に向けたものである。

LEDをバックライトの光源に用いるとき、明るさを稼ぐためにLEDを複数個用いる。携帯電話機では5~6個のLEDを直列につないだものが光源となる。数十個~100個超も用いる液晶テレビでは、複数個を直列につないだストリングを複数列用意し、それを並列につないで光源にする。Vfにバラつきがあると、ストリング全体を発光させるために必要な電圧に差が出てきてしまう。一般的には、LEDドライバICが出力する1系統の電圧を各ストリングに加えている。バラつきを考慮しないと発光しないストリングが出てくるので、LEDドライバICが出力する電圧はバラつきを加味した高めの電圧にせざるを得ない。同電圧の高め度合いが、電力損失になるわけだ。例えば、30個の白色LEDを直列に接続するストリングの場合、Vfに10%のバラつきがあるとストリング間で発光させるために必要な電圧は10V近い差が生じる。ストリングに100mA流すとすると、1ストリング当たり1Wの電力損失が生じることになる。

所望の明るさを得るためにストリングの発光に必要な最低限の電圧が分かれば、上記の損失を減らせる。ロームの特許技術の要点は、ここにある。LEDと後段の調光器間の電圧をモニターしておき、この電圧が複数列のストリングの中で最も低いストリング(Vfの高いLEDが複数個つながるストリング)を見つける。そして、同電圧が一定になるようにLEDドライバICからの出力電圧を制御するのだ。ロームが保有する国内特許は複数列のストリングを用いるものに対してだが、海外での特許はストリング1本の形態も含んでいるので権利範囲はさらに広い。

複数個のLEDを使って明るさを稼ぐという手法を採るのは、液晶パネルのバックライトにとどまらない。昨今、市場が拡大しているLED照明器具も一緒だ。中でも、LEDシーリングライトのようなLED照明器具は、LEDバックライトの技術を応用しやすいという。ロームによれば、上述の制御技術はこうしたLED照明器具でも効果を発揮するとみる。LED照明器具においても、同社のLEDドライバICが浸透していくかどうか、注目されるところだ。LEDドライバIC以外でも、LEDバックライトには大面積を均一かつ高輝度に発光させたり、薄型化させたりするカギとなる部品や部材がある。LED照明器具の関連市場で、バックライト関連部品を手掛けるメーカーの動向だけでなく、関連特許がどのように生かされるのか目が離せそうにない。