• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

HOMEクルマエディターズ・ノート > HEV用モータの効率はもっと上がる

エディターズ・ノート

HEV用モータの効率はもっと上がる

  • 清水 直茂=日経Automotive Technology
  • 2012/01/10 15:32
  • 1/1ページ

 モータの磁力を変えるのに、永久磁石そのものの特性を変えてしまえ。そんな「コロンブスの卵」のような発想に基づいた、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)に向けたモータの研究が進んでいます。東洋大学の堺和人氏らによる「ハイブリッド可変磁力モータ(HVMF:Hybrid Variable Magnetic Force Motor)」です。

 最近のHEV/EVに使うモータの主流は、永久磁石リラクタンスモータ(PRM:Permanent magnet Reluctance Motor)と呼ばれるもの。一般的な永久磁石モータ(PMM:Permanent Magnet Motor)と比べて低速域と高速域で高い効率を実現するのが特徴です。米Ford Motor社がHEVで採用し、トヨタ自動車の「プリウス」も、そうは呼んでいませんがPRMと同じ原理のモータを使っています。HVMFは、このPRMを進化させるモータという位置付けです。

 具体的にはどんな仕組みなのか。紹介の前に、PRMとPMMについて少し説明します。PRMは、永久磁石の磁力と、電磁石のコイルに電流を流して発生する力(リラクタンストルク)を併用するモータです。回転子(ロータ)に永久磁石を、固定子(ステータ)に電磁石を置き、永久磁石の磁力に4~5割程度のモータトルクを、リラクタンストルクに残る5~6割程度を受け持たせます。PMMとの違いが少し分かりにくいのですが、PMMは8割程度と大半のモータトルクを永久磁石に担わせるものとされます。初代プリウスに使うモータはPMMと呼べるでしょう。

 PRMは、PMMの弱点である高速域の効率を改善するために開発されました。PMMでは高速域で「弱め磁束制御」を使い、永久磁石による磁束と逆向きの磁束を発生させるように電磁石に電流を流す必要があります。モータの回転速度が上がり電磁石の誘導電圧が大きくなると、電源電圧の上限に達してしまい回転数を上げられなくなるためです。弱め磁束制御を使って誘導電圧を抑えるのです。

 ただ弱め磁束制御に使う電流はモータトルクの発生に寄与しません。そのため使えば使うほど効率が低くなります。ここでPRMの登場です。電磁石によるリラクタンストルクの割合を増やして磁束の“可変幅”を大きくし、高速域では電磁石による磁束を減らして誘導電圧を下げます。これなら弱め磁束制御をほとんど使いません。

 PRMはHEV/EVで使うのにとても優れたモータですが、それでもすべての速度域で効率を高められるわけではありません。特に効率が低くなりがちなのが車速50~60km程度の中速域。低速域の効率を上げるために永久磁石の磁力をある程度大きくしなくてはならず、そうすると中速域のようなトルクが小さくてすむ領域で鉄損が占める割合がどうしても大きくなってしまうのです。

できそこないの磁石が必要

 そこで冒頭のHVMFです。これまで「不変」を前提としていた永久磁石の磁力を積極的に変えてPRMを進化させようというものです。実はこの考えを取り入れたモータは、東芝が最初に洗濯機で実用化しました(Tech-On!関連記事)。その開発者の一人である堺氏が東洋大学に移って自動車への応用を目指して研究を続けており、それがHVMFというわけです。現在はまだ計算で性能を評価している段階ですが、堺氏はHEV/EV向けモータの実用上のエネルギ損失を10~20%程度減らせると考えています。

 HVMFの考え方は単純です。発進時など大きなトルクが必要な低速域では永久磁石の最大磁力を使います。モータの回転速度が上がり、それとともに誘導電圧が高くなって電源電圧に近づくと、永久磁石の磁力を落とすのです。さらに回転速度が上がって電源電圧に再び近づくと永久磁石の磁力をさらに落とし、これを繰り返します。”永久”磁石の磁力を簡単に変えられるのかと思う方もいるかもしれませんが、これは意外と難しくありません。永久磁石にはヒステリシス特性があり、保磁力を超える外部磁場を加えれば磁力はすぐに変わります。電流は一瞬流せばよいので、消費電流はごくわずかですみます。

 磁力を頻繁に変えても永久磁石はほとんど劣化しません。HDDといった磁気記憶装置を思い出してもらえるとよいのですが、HDDでは磁性体に磁場を加えることで極性を変えて信号を記憶させます。このとき極性を何回変えてもHDDはほとんど劣化しません。そんなイメージでしょうか。

 詳しい原理と構造は、堺氏らによる論文「ハイブリッド可変磁力モータの原理と基本特性」(電気学会論文誌D(産業応用部門誌), Vol.131, No.9、pp.1112-1119, 2011年9月)を見ていただきたいのですが(日経Automotive Technology日経エレクトロニクスでも詳しく紹介しています)、モータの固定子側に外部磁場をつくる可変磁場コイルを新たに設けて実現します。可変磁場コイルに磁化電流を短い時間流して保磁力を超える磁場を一瞬発生させ、回転子側の永久磁石(サマリウム-コバルト(Sm-Co)磁石)の極性を変えたり減磁したり、増磁したりするのです(ベースの磁石としてネオジム磁石も組み合わせます)。

 もちろん、まだまだ研究段階。実用化への課題は多くあります。中でも大きいのが、磁石の特性を頻繁に変えるのに適した永久磁石がないことでしょう。一般に、保磁力が高くて極性が周囲の磁場環境などによって変わりにくいものが優れた永久磁石とされます。けれどもHVMFで使うには極性を変えやすい磁石が“優れた”磁石。永久磁石の開発者からみると、「できそこないの永久磁石」を作れと言われているようなもので、これはなかなか大変。それでもHEV/EVのモータ効率を大きく改善できるのはとても魅力的です。今後の進展に注目したい技術の一つです。

おすすめ