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言えない大事

御用聞きが未来を作る

  • 佐々木次郎
  • 2012/01/10 13:00
  • 1/1ページ

 お局のご機嫌がよろしいようで…。

 「おいおい、なにか嬉しい事でもあったのかい? 鼻歌なんぞ出るからには、よっぽど何かあったんだろうナァ」。

 「ふふふ、次郎さん、ウチの営業部の山崎くん、最近、営業成績が抜群なの、しかもそれが御用聞き営業に徹しているというのだから、アタシ、それを聞いて嬉しくなっている訳よ。だってそうでしょう。今どきのお客様、自分が忙しいし、何かを探したり、欲しい物があったとしても、それをじっくりと考える余裕なんてないじゃない。それを、こっちから出掛けて行って、じっくりとお客様の声を聞き、本当に誠心誠意、お客様の為になることをしてあげるのが御用聞き営業、それを実行している山崎くん、立派だわ!」。

 いやいや、ウチの営業にもいたんですねェ、御用聞きに徹している営業マン。アタシも嬉しいのと、何かホッとしましたワナ。だってそうでしょう、こちらから出向いて、お客様の要望を聞き出し、それに対応するのが営業の基本。しかし、いつの頃からか、自社の製品をストレートに売り込むだけ。お客様が買わないと分かればハイさよなら、いくら効率が悪いからって、これからの付き合いもあろうてェ事を考えれば、自社の製品に関係なくても色々な相談に対応する。それくらい、お客様の為になることをしてあげればいいのですヨ。

 最近、若いシトに御用聞きと言いますと、「ああ、あの時代劇に出てくる十手や取り縄を持った人?」なんて言われちまいますが、そうではありませんヨ。昔は、どこでもそうだったんですが、八百屋さんなどは、お客さんの家に出向いて、注文を取って回ったものですヨ。アタシの家にも、八百屋のケンちゃんがよく来ていましたワナ。ケンちゃん、我が家とは随分長い付き合いでしたから、「コンチハ~」と裏口から勝手に入って来て、これまた勝手に台所に上がり込み、勝手に棚を開け、勝手に足りないものを補充してしていたもんですヨ。

 いま考えるてェと、もっとも顧客に近い営業スタイルではありませんかねェ。そんな他人に、勝手に任せて大丈夫かと心配される方もおられるでしょうが、アタシの母は、ケンちゃんには絶対の信頼を寄せていたのですヨ。何も不都合はなかったし、何より、ケンちゃんが置いていった商品が高いと言ったり、クレームを付けるようなこと、全くありませんでしたワナ。

 小売業だけではなく、そんな御用聞き営業が、これからは大事になって来る、そんな時代じゃりませんかねェ。

 お局も、「実はアタシ、この御用聞き営業が、未来を拓く重要な営業手法ではないかと、最近、強く思い始めたのよ。だって、御用聞き営業には、私達の将来を明るくする、大切な本質が、そこにあると思っているのよ」。

 おっと、奨励に向けた本質、聞きましょうかネ。

 「これだけ情報化社会になって来ると、様々な情報が駆け巡り、一見、便利になっているようだけど、実は逆。情報が溢れて、お客様はその情報に溺れているという状態じゃないかしら。だから、お客様は何をどうしたらよいのか、実は選択できないでいることが多いのよ。ケンちゃんの時代は、そもそもスーパーも無かったし、クルマ社会ではなかったから、売る側が出掛けて行って、それでお客様が喜んだのだけれど、今の時代は、自分で選ぶことが難しいということなのよ。こうなると、誰かに相談すればいいのだけれど、自社の社員では同じこと。では、他の誰かといっても、そう簡単に相談する相手なんか見つからないじゃない。そこで、信頼できる御用聞きが必要になって来るという訳よ。この、信頼できるってところがミソで、誰でもいいってことじゃないの。信頼、文字通り、信じて頼れる人じゃなくちゃいけないでしょ、それを、山崎くんがしてるってこと。嬉しいじゃない!」。

 部長も、「そうかァ、御用聞きってのは、これからの時代に必要なことなんだな。確かに、ウチに来る営業マンの場合もそうだが、本当に信頼できる営業マンは、自分の製品を売り込むだけじゃなくて、こちらの相談ごとに丁寧に応えてくれるものよ。そして、例えそれが自社の売り上げにならなくても、ちゃんと世話してくれるのサ。そうなると、その会社の製品が必要になれば、他の製品と合い見積もりなんざァしなくても、直に頼むようになる。いるようナァ、本当に優れた営業マンは御用聞きをするのが当たり前かもしれないぜェ」。

 そうですヨ、言葉は古いが、御用聞きてェのは、いつの時代でも最先端の営業手法かもしれませんヤネ。
 
 そんなこんなで、いつもの赤提灯…。

 「いやあ、御用聞きですかァ。知りませんでした。ボクの時代は、もう小さい頃からスーパーに行って買い物をしていましたし、他人が勝手に家に上がり込むなんて、考えられませんよ」。
 ははは、アスパラもビックリです。

 欧陽春くんも、「御用聞き営業、多分、中国では成り立たないと思いますよ。お客様の為になるように、それも、自社の製品以外のことで相談に乗るなんてことをしたら、その営業マンは上司からコテンパンに叱られますよ。何故、他の会社の手伝いをするのだ、何か、特別の関係でもあるのかってね。大体、お客様の方も、自分の為に無報酬で働いてくれるなんて、何か裏があるのではないかと、かえって怪しく思いますよ」。

 う~ん確かに、そこはお国柄の違いかもしれませんが、この御用聞き営業の目的は、実は回りまわって、自社製品を買ってくれるようにすることなんですヨ。でも、ストレートにそれができなくても、先ずは、信頼関係を築き上げること、それが大事じゃありませんかねェ。

 「そうよ次郎さん、その通り。今までもこれからも、その信頼関係が、一番大事なことなのよ。何でもかんでも便利になって、何でも買える時代。だからこそ、頼りになる人の助言が必要になるのよ。安物買いの銭失いって言うけれど、安いばかりで何の役にも立たない物を買うより、いかに役立つ物、それが何か、それを教えてくれる人、それが御用聞きの本質なのよ」。

 「いやあ、勉強になりました。これからの中国は、御用聞きをしなければいけません。相手のことを考え、相手が良くなるように、先ずはお手伝い。それからが本当のビジネスなんですね。少し時間は掛かるかもしれませんが、まさに、御用聞きが未来をつくることかもしれません。しっかりと覚えて帰ります」。

 なんか、欧陽春くん、目がキラッと輝きましたヨ。

 「ところで先輩、次のお酒は何にしますか。ボク、ちゃんと頼んであげます。早速、御用聞き営業ですよ」。

 ははあ、アスパラ、何か企んでますヨ。

 「へえ、アスパラ、気が利くじゃない。でも、アンタの魂胆はミエミエよ。ここのお勘定、アタシにおごってもらいたんでしょ!」。

 「ひゃあ、先輩、何で分かるんですかァ。恐れ入りました」。

 「バカね、アンタは本当に純真なバカなんだから! いい、アンタは何かする時、全~部、目に書いてあるのよ。今のこともそうよ。御用聞きじゃなくて、ゴチソウサマ、そう書いてあるのよォ!」。

 ははは、お局に掛かると、心の中まで見透かされてしまいますヨ。

 …呑むほどに酔うほどに、今夜も楽しい時間が流れます。

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