東日本大震災、原子力発電所の事故と電力不足、タイの洪水、欧州の信用不安、1ドル=80円を切る超円高――。10年以上分もの危機が一度に訪れたような2011年が暮れました。新しい年を迎えるにあたり、今年こそは新規巻き直しの年にしたいと念願している読者の皆さんも多いのではないでしょうか。

 震災への対応では、日本人の辛抱強さ、連帯やおもいやりの心、責任感の強さが世界から賞賛され、特に自動車業界における復興の速さは驚嘆の的にさえなりました。しかし、そうした賞賛に甘んじている余裕は、今の日本の自動車産業にはありません。こうしている間にも、世界の経済情勢は大きく動いているからです。先に挙げた欧州の信用不安や、米国景気のもたつきから、世界の自動車需要の「先進国から新興国へ」という流れはますます鮮明になっています。

 世界最大の中国の自動車市場の動きは、一頃よりスローダウンしているとはいえ、相変わらずプラス成長を維持していますし、インド、ブラジルといったその他の新興市場でも、クルマを購入できる所得層が今後10年のうちに、大幅に増加する見込みです。

 日本の自動車メーカーはリーマンショックの前まで、米国という巨大な市場で、大きな利益を上げてきました。しかし、今後開拓しなければならない新興国は、それぞれ文化的にも制度的にも大きな差があり、好まれる商品や使われ方なども千差万別です。中国市場でも、日本の最新商品を持ち込めば飛ぶように売れた時代はとうに過ぎ去り、より手ごろで、燃費がよく、見栄えがして、しかも政府の優遇措置が受けられる車種に人気が集中するなど、市場自体も急速に変化しています。

 それぞれの市場の違いに目を凝らし、しかもその変化に機敏に対応する、そういうきめ細かなマーケティングが先進国の市場以上に必要になってきます。そのためには、それぞれの市場に深く入り込み、現地化を徹底することが必須条件になるでしょう。

 その意味で教訓になりそうなのが、日本の電機メーカーの経験です。最近興味深く読んだ、日本の電機業界の没落を分析した記事では、韓国のサムスン電子が新興国の市場を徹底的に研究して商品を投入しているのに対して、日本の電機メーカー幹部が「当社にはマーケティングという部署はない」と答えるくだりが出てきます。この記事の著者は「サムスンが『売れるものを創っている』のに対して、日本は『作ったものを売ろうとしていた』のである」と日本の敗因を結論づけています。

 日本の自動車メーカーも現地化を急いでいますが、新興国市場の開拓ではサムスン電子と同じ韓国企業であるHyundai Motors社が現地ニーズを的確に汲み取った商品展開で急速にシェアを伸ばしています。日本の自動車産業が、電機産業の轍を踏まずに済むかどうかは、世界のそれぞれの市場に入り込む「真のグローバル化」ができるかどうか、そのスピードにかかっていると言えるでしょう。

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