関係社会

 権力社会は、上と下の関係を強調する。「関係(中国語の発音:グァンシー)社会」は、内と外、遠と近のつながりを重視することを意味する。中国の伝統社会は、血縁や地縁、さまざまな縁による関係を通して広がっていく関係社会である。社会人になると、親族をはじめ、同級生、同僚、先輩、友達、関係先などとの付き合いを非常に大切にし、人間関係や人脈やコネコネクションを重視する。

 中国を離れて日本に留学に来た時、何の人間関係もない中、どうやって生きていくのか、当初、自分だけではなく、親戚や友人も非常に心配した。実際には「関係」がなくても進学、就職などができた。今も日本に住む中、いざ何かあった時に、関係がないので大丈夫だろうかと心配する時がある。

 例えば先日、子供がマイコプラズマ肺炎で日本の病院に入院した。妻も仕事をし、二人の両親も日本にいない。何より、病院とは何の関係も持っていないので、入院と言われて正直非常に困った。しかし実際には、担当の医者や看護師とまったく関係をもっていなかったが、私と妻はそれほど会社を休むことなく、順調に乗り越えられた。中国であれば、入院するならばできるだけ関係を持った病院に入院する。関係があるところでないと、まず安心できない。そして入院したら、医者や看護師に贈り物をし、なるべく医者や看護師とのよい関係を作る。病院もそうだが、進学、就職、昇格などあらゆる節目の行動をするとき、利用できる関係網を頭に浮かび上げてなるべく関係を見つけ、見つけられない場合にはなるべく既存の関係を利用して、新たな関係を作る。

関係ネットワークの違い
日欧米:人々の間にあるのは比較的シンプルな繋がり
中国:人々の間に複雑な繋がり

 イノベーションを起こすための原動力となるのは、技術に対する自分なりの愛着心と、そして未来への好奇心であると考える。その意味では、ノベーションはどちらかというと個人主導の行為が多い。しかし中国では、幅広い様々な関係を持つため、その維持に多くの時間と精力を使うだけではなく、自分の行為がまわりからどのように見られているか、上下関係にどのような影響を与えるのかなど気にしないといけない。ともすると、イノベーションを起こす意欲がなくなるだろう。

 イノベーションは、常識を破り未来を開拓する行動なので、他人や周り、社会からの批判と阻害を無視して、独自路線を堅持することが欠かせない。イノベーターは夢を持つだけでなく、夢を実現させるための強い性格も持った人である。何かを成し遂げたい、達成したいという個人の確固たる動機と熱意がなければ、革新は創り出せない。所謂、個人主義なのである。関係社会は、特定の関係で構築された「社会」なので、他人からの自分に対する見方が重視され、独自性を堅持できなくなってしまう。

 また、製造や販売などの経済活動と違って、研究開発は長時間、孤独であることが比較的多い。「関係」作りとその維持が、生活の一部として欠かせない中国の人々にとって、単調かつ地味な研究開発生活が我慢できる人は多くない。欧米の大学は、都心とかなり離れて、静かなところに建設されていることが多い。その原因の一つは、学問に専心できるためであると見られる。中国人としては、その綺麗な田園風光は羨ましいと思うものの、そこでずっと研究生活に取り込むとなると、ちょっと考えてしまう。