宮田 それは、ムラ社会だからです。どの業界も自分のムラの権益を守ろうとする。そこからはみ出す特異な能力を持つ人材を育てようと思っていないし、経営者を育てるつもりもない。マスメディアも含めて、ただ「言うだけ」「議論するだけ」ということが横行しています。実行部隊がいない。

加藤 復興プロジェクトでは、どんなことを提案しているのですか。

宮田 再生復興の設計図を考えて、包括的なプランを提案しています。技術のカギは蓄電です。メガソーラーの発電所、蓄電池工場、植物工場などを含めて20社くらいの企業を集めました。2次電池を社会システムにするモデルを日本企業は開発する必要があります。「我々はいい電池を持っていますよ」だけでは、何も生まれないのです。

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 デザインやアーキテクチャというのは、非線形の連立方程式を解くことです。単にメガソーラーの発電所を建設しても、植物工場だけを立ち上げても、それだけでは方程式の変数が一つしかない。多くの事象を連携させ、複数の変数が絡み合う連立方程式の最適解に導くこと。これが、価値につながる。複数の事象を同時に扱わなければ、雇用や新たな産業を生む連鎖が始まりません。復興という目的に向かって、雇用やエネルギー問題、産業振興などから成る連立方程式の解を求める必要があります。

加藤 そうした大規模なシステムで利用できる蓄電池の技術はあるんですか。

宮田 あります。電気自動車用の2次電池の延長線上で実現できるはずです。でも、なかなか投資しようという機運に結び付かないのは確かです。大規模な投資をするというのは、戦うことだと思いますが、大企業はその決断を避けるところがある。だから、ファイナンスに詳しい専門家も集めて、企業単位ではできないことを分野横断で進めたい。そういうプロジェクトの中心になれる若手を集めています。外資系企業の人材が多いですね。

加藤 外資系にプロジェクト志向の人材が多いのはなぜなのでしょうか。

宮田 日本の製造業が、この20年間停滞したのは優秀な人材が外資系企業に就職したからです。本来ならば技術開発に携わっていたであろう人材が、外資系の企業や金融機関に就職した。私も、日本の大手企業にはだいぶ叱られましたよ。「なぜ、東大から優秀な技術者を就職させないんだと」と。でも、それは就職させないのではなくて、学生にとって製造業に魅力がないということです。

加藤 日本企業は魅力がなかったと。

宮田 ご存じの通り、工学部の電気・電子の学科は5~6年前に全国の大学で人気が急落しました。私も、12~13年前に同じように人気が落ちていた造船業界を立て直そうと、いろいろな取り組みはしました。でも、さまざまな提案をしても、結局、企業は何も手を打たなかった。かつて、日本の造船メーカーの世界シェアは3割を超えていましたが、今は1割を切っています。学生は、業界の動きをきちんと観察していますよ。

加藤 企業にとって、大きな投資は戦うことと同じというのはその通りだと思います。多くの企業は安全なことにしか投資しない。