加藤 宮田さんは船舶だけではなく、異分野のさまざまなプロジェクトを手掛けています。なぜ、他の分野のプロジェクト・マネジメントができるでしょうか。

宮田 キッカケは自分の修士論文です。研究を始める前にテーマの「ビジョン」「コンセプト」「モデル」を真剣に考えました。世界で何が起きているか、何が欠けているかをきちんと調べた。

 自分が決めた研究テーマの分野で世界一になろうと思ったんですね。修士論文は何か書いたら卒業はさせてくれるだろうけれど、せっかくやるならば、世界一の成果を出そうと。実際、修士課程の1年半で、ほぼ世界一になりましたよ。できるんですよ。修士論文でも本当にいいテーマを探して、集中してやれば。

加藤 でも、さすがに何か下地があったのではないですか?

加藤氏
[画像のクリックで拡大表示]

宮田 下地はありませんでした。ある別の分野の専門家と話していて共通していたのは、「5000時間の集中」ということでした。修士課程の1年半で5000時間集中して勉強した。土日もなく、映画も見ず、彼女もいない。1日10時間を1年半続けると5000時間なんです。それくらい集中すれば、誰でもその分野の専門家になれる。

 America's Cupのテクニカルディレクターを務めた際も、そうです。船の設計経験はありましたが、ヨットについては素人でした。だから、ヨットを理解するように1年半は徹底的に勉強しました。設計して、実践して、レースに出て、プロジェクトが終わった時にはヨットの設計で世界のトップを走っていたと自負しています。

 20~30年もの間、ずっと同じ研究を続けて「オレは専門家だ」と話している人の意見は、ほとんどの場合、間違っています。そういう“専門家”の話は聞かない方がいい。専門家が、本来進むべき方向とは逆に世の中を引っ張っていることが多い。世の中を変えるのは、アウトサイダーですよ。アウトサイダーだけれども、その分野の根本に立ち返って徹底的に研究する人です。そういう人たちが世の中を支えています。

 私は東大の教授なので、ある意味、日本の本流にいるのかもしれませんが、今まで手掛けてきた研究やプロジェクトが本流だったことはありません。誰もやらないことをやってきた。最近は、2次電池や環境問題を研究していますが、たぶん何十年もこの分野を研究していた人は、「なぜ、船の研究者が電池とか、環境とか言っているんだ」と思っているはずですよ。

加藤 なぜ、努力を継続できるのですか。

宮田 とにかく、勝ちたい。負けず嫌いなんでしょうね。America's Cupは、依頼されて受けたプロジェクトですが、それでもそこそこの結果で終わらせるのは嫌でした。150年の歴史があるレースです。そこに、ヒヨコの日本が出て行く。頑張って戦って、勝たなければなりませんよね。

 手掛けてきた仕事は、いつも重い。最近手掛けている被災地の復興プロジェクトは、30年以上の経験の中で最も難しい。だからこそ、私がやらなければならないと思っています。

(次回に続く)