宮田 修士論文は、自分でテーマを企画して、実験装置を作って、すべて一人でやりました。指導教官はいましたが、研究テーマを提案したら「いいけど、指導はできないよ」と。一人でやる経験をしたので、研究のマネジメントができるようになったと思います。

 「なぜ、博士課程にいかないの?」と聞かれましたが、設計がしたかったのと、大学にはポストがなさそうだったので就職しました。私のような経歴だと普通は研究所に行くことが多いようで、「無試験で採用するから研究所においで」とも誘われましたが、設計志望だったので断りました。それで入社試験を受けて、希望の設計部に配属されたんです。

[画像のクリックで拡大表示]

加藤 普通は、研究所に入りたがるのでは。

宮田 研究所では、直接設計には携われないですよね。設計部門では、顧客との付き合いなど営業に近い仕事もしましたし、クレーム処理も手伝いました。実際の船舶設計に加え、設計手法の開発なども手掛けた。造船業界が華やかな時代だったので、いい経験ができたのだと思います。

 半年で基本設計をして、工場の詳細設計に移して、完成した後は性能評価をする。そうした一連の経験が後に生きました。

 試運転を担当する際には、速度や旋回性能などすべての項目を実際に乗船しながら試験するわけです。短くても2日間、長くて1週間を掛けて。性能については、船形を決めた基本設計の責任なんです。10人くらいのチームで船に乗り込んで、試運転に行きます。

加藤 どんな船に乗ったんですか?

宮田 本当にいろんな船です。ちょうど技術革新で新しい船がどんどん登場する時代でした。コンテナ船がより高速に、大型化した。タンカーも今は30万トン船で収束していますが、当時は50万トン級のタンカーがありました。

 船の設計では、速度のマージンがゼロなんです。例えば、45万トンの船で最高15.2ノットの仕様ならば、その通りの速度で航行するように設計する。ぎりぎりまで絞って設計するので、試運転はドキドキなんですよ。要求仕様に満たないと、キャンセルの可能性がありますから。

加藤 自動車は速度計が最高180km/hまででも、250km/hくらい出たりしますよね。それとは全く違うと。

宮田 そうです。貨物船というのは経済の道具なので、1トンの荷物を運ぶために掛かる初期コストと燃料費で勝負が決まります。だから、ぎりぎりで設計するのです。少しでも設計を誤ると大変なことになる。重心の高さが少し違うだけで、不安定になったり、真っすぐに走らなかったりすることがあります。

 私は24歳で就職して、29歳までしか会社にはいませんでした。若造ですよね。それでも、試運転担当の時には、先輩技術者の設計した船を偉そうに評価することになります。今のように携帯電話はありませんから、試運転が終わって陸に上がったら、すぐに公衆電話にいくのです。設計部長に「無事に速度が出ました」とか、報告するために。