先日就航したボーイングの最新鋭の旅客機「ボーイング787」は、従来機よりも燃費が良く、給油なしに長距離を効率よく運航できます。ボーイング787の高い燃費を実現したのは、東レの炭素繊維。従来はアルミ合金で作られていた機体を、東レの炭素繊維にすることで、大幅に機体が軽量化され、燃費を20%改善したと言われています。しかも、飛行という過酷な環境に耐えるように、東レの炭素繊維は鉄の10倍もの強度があるそうです。

 一方、飛行機とは異なる分野ですが、ユニクロの大ヒット商品ヒートテックにも東レの素材が使われています。レーヨンの持つ吸湿発熱効果、アクリルが持つ高い保温性、ポリエステルが持つ速乾性を組み合わせることで、保温、吸汗、速乾といった、従来の衣料にない特徴を実現したとされています。

 フラッシュ・メモリでは、携帯端末とサーバーで必要とされる要求は異なりますが、東レにとっても飛行機と衣料の要求は大きく違うでしょう。極めて高い強度、耐久性が求められる飛行機と、コストや保温性が重視される衣料。

 東レのエンジニアの方々は、ボーイングやユニクロと密接に連携しながら、狙ったアプリケーションに最適な素材を開発したのではないでしょうか。ボーイング787やヒートテックは、アプリケーションを見据えた素材開発のお手本のような事例だと思います。

 冒頭に書きましたように、最近はハードウエアのものづくりに携わる企業やエンジニアは肩身が狭い。大学でも「半導体の研究はやめてしまえ」などと私も時々言われます。

 アジアの企業の台頭や円高を考えると、誰でも作れるものづくりを日本で続けることは難しい。だからと言って「ハードウエアをやめて、サービスをやろう」というのは言い過ぎでしょう。日本が強みを持つ、デバイスや素材といったハードウエアには、まだまだ大きな可能性がある。

 ただし、ハードウエアの強みを最大限に発揮するには、「お客さんに言われたものを作る」「使い方はお客さんに考えてもらう」という受け身な姿勢ではいけません。業種は異なりますが、飛行機や衣料というアプリケーションに勇気を持って踏み込む。そして、そのアプリケーションに特化した、他には真似できないようなハードウエアを開発する。

 アプリケーションを理解するには、異業種との連携が重要になります。メモリのシステム開発をする私だったら、スマートフォンの次に成長する応用製品は、データセンターのサーバーです。GoogleやTwitter、FaceBook、Amazonなどのサービスに特化した、サーバーのシステムやメモリ制御が重要になります。そのためには、私も半導体だけを研究していてはダメで、Googleなどとの連携が不可欠になるでしょう。

 日本にはハードウエアの強みはある。そして、東レのようにハードウエアの強みを上手く応用したお手本もある。ユニクロのようなサービス業も強い。あとは、行動あるのみ。まずは、私自身が行動することから、と自戒を込めて。