フラッシュ・メモリは携帯機器やパソコンのデータを蓄えるメモリ、という単純な部品ですが、アプリケーションに特化した、メモリを制御するシステム技術が重要になっています。フラッシュ・メモリは世界で最も進んだ微細加工の技術を使って製造され、2012年には10数ナノメートル(1ミリメートルの10万分の1)にまで微細化された製品が商品化されます。

 微細化はメモリの容量が大きくなる利点はあります。その反面、1個のメモリの蓄える電子の数が減ったり、周囲のメモリとの間の干渉などにより、信頼性が悪化する欠点があります。メモリへの書き換えの回数が増えるに従って、メモリが壊れてしまうのです。10年前のフラッシュ・メモリが1万回書き換えることができたのに、最近のフラッシュ・メモリを書き換えられる回数は、数千回にまで減ってきています。

 Anobitが得意とするのは、そんな壊れやすいフラッシュ・メモリの誤りを訂正するシステム技術(ECC:Error Correcting Code)です。書き換え回数が増えてメモリに記憶されているデータが壊れても、壊れたデータをコントローラが修正する。その結果、3000回しか書き換えられなかったフラッシュ・メモリが、例えば6000回まで使うことができるようになるのです。

 Anobitは巨額な投資が必要なフラッシュ・メモリ自体は手掛けず、フラッシュ・メモリを生かすためのコントローラに特化しているのです。フラッシュ・メモリの品質を2倍、10倍と高めることができるコントローラですが、開発には資金はさほど必要ありません。

 誤りを訂正する優れたアルゴリズムさえ考えることができれば、ベンチャー企業でも大学の研究室でもコントローラの半導体チップの設計は可能です。そして、製造は台湾のTSMCやUMCといったファンドリ(半導体受託製造企業)に委託すればよい。

 コントローラは誰でも手掛けることができますが、差異化の重要なポイントはアプリケーションに応じた最適化。フラッシュ・メモリはiPhoneのような携帯端末からパソコン、データセンターのサーバーなど多種多様な用途に使われています。搭載しているバッテリー容量が少なく、低電力化が必要な携帯端末と、高速な性能が求められるサーバーでは、メモリに求められる要求も違ってきます。

 携帯端末では、性能は犠牲にしても、電力をできるだけ消費しないで誤りを訂正するコントローラが求められます。一方、サーバーでは、電力は多少は多くても、毎秒10メガバイトという性能の携帯端末に比べると100倍も高速な毎秒1ギガバイトを実現するコントローラが必要とされます。パソコンのコントローラは、携帯端末とサーバーのちょうど中間くらいです。

 携帯端末からサーバーまで、メモリやSSDに求められる要求は千差万別ですが、どの用途でも同じフラッシュ・メモリが使われています。そして、フラッシュ・メモリというハードウエアの潜在能力を最大限に引き出すように、アプリケーションに応じた特徴的な制御をコントローラが行っているのです。