「AppleはSSD(Solid State Drive)やフラッシュ・メモリ用コントローラを手掛けるイスラエルのベンチャー企業Anobit Technologiesを4億~5億米ドルで買収する交渉を進めている」

 先週はこのような報道が世界を駆け巡りました。AppleといえばiPhoneやiPad、MacBook Airなどのハードウエアを開発、販売していますが、ハードウエアの製造は手掛けていません。Appleは製造よりも、デザインや製品の企画力、iTunesによる音楽配信などのサービスが注目されています。そのAppleはなぜ、ファブレス半導体ベンチャー企業に300~400億円もの投資を考えているのでしょうか。

「ものづくりは、もう日本ではムリ」
「ハードウエアでは差異化できないし儲からない」
「ハードウエアはコストの安い韓国や中国でしかビジネスは成り立たない」

「Appleはサービスの会社だ」
「これからはソフトやシステムの時代だ」
「製造業ではなく、音楽配信などのサービスが利益を生む」

 最近はとかくハードウエアや「ものづくり」に対する風当たりが強い。半導体だけでなく液晶パネルやテレビの製造でもアジアの企業の台頭が著しい。円高の影響もあり、厳しい価格競争にさらされた日本企業のハードウエア事業は、縮小や撤退が相次いでいます。成長が期待される太陽光パネルの製造でも、世界市場でのシェア上位は既に中国企業に占められています。供給過剰による価格下落もあり、日本企業は厳しい事業環境に置かれています。

 しかし、Appleが半導体ベンチャー企業の買収を狙うように、今でも半導体や素材などのハードウエアはイノベーションを引き起こす大きな潜在力を持っています。ただし、単純なハードウエアはあっという間に、中国や韓国、台湾などの企業に真似をされ、価格競争に飲み込まれてしまう。

 差異化 のカギは、アプリケーションを見据えたハードウエアや素材の開発。Anobitの例では、フラッシュ・メモリやSSDはiPhoneやMacBook Airなどに搭載されている重要な部品ですが、Appleが欲しいのはフラッシュ・メモリというハードウエアの潜在力を生かしきる、Anobitのシステム技術でしょう。

 フラッシュ・メモリの製造は東芝や韓国Samsung Electronicsなどの半導体メーカーが手掛けています。最先端の半導体製品の製造を行うには数千億円にも及ぶ巨額の投資を毎年のように行う必要があります。5兆円を超える巨額な手元資金を持つAppleでも、フラッシュ・メモリの製造を手掛けるのは容易ではないでしょう。