米Apple社が、韓国Samsung Electronics社が「Galaxy S」「Galaxy Tab」などでApple社の特許などを侵害したとして米国で訴訟を提起したのは、2011年4月のことでした(『日経エレクトロニクス』2011年5月16日号の記事)。Samsung社もApple社が「iPhone」「iPad」でSamsung社の特許を侵害したと反訴し、両社は現在、欧州各国や日本、韓国などでも同様の知的財産権侵害訴訟で争っています。各国での訴訟のほとんどは継続中で、和解に至る動きも見えてきていません。

 Samsung社は、Apple社にiPhoneやiPadのアプリケーション・プロセサ、DRAM、フラッシュ・メモリといった基幹部品を納めてきました。良好な関係にあるとみられていた両社がこれほど大規模な訴訟合戦を繰り広げることになるとは、思いもよりませんでした。スマートフォンやタブレット端末の市場は、両社にとってそれだけ譲れないものになってきているのでしょう。

 日経エレクトロニクスでは2011年12月26日号に「Apple対Samsung、訴訟合戦の先にあるもの」と題した解説記事を掲載予定です。米国における訴訟での両社の主張や、両社の米国での知的財産権の保有状況を分析することで、この訴訟合戦が何を象徴しているのかを探りました。

 「今回の訴訟で興味深いことの一つは、Apple社が特許(utility patent)だけではなく、デザイン特許(design patent)や商標(trademark)、トレード・ドレス(trade dress)を組み合わせて侵害を訴えたことだ」。日翔特許事務所 副所長で立命館大学 大学院 テクノロジー・マネジメント研究科の准教授でもある弁理士の小田哲明氏は、このように指摘します。iPhoneやiPadの事業そのものやブランド・イメージを守るために、Apple社はあらゆる権利を使って複合的な知的財産権訴訟を仕掛けたのです。「イノベーションは技術だけではないというApple社の思想が明確に表れている。こうした訴訟は今後増えるのではないか」(小田氏)。

 国内でもデザインやブランドの知的財産権を重視する動きが出てきました。日本知財学会が2011年11月に設立した「デザイン・ブランド戦略分科会」の第1回研究会には、同学会の分科会としては異例の人数が集まったそうです。

 スマートフォンやタブレット端末を構成する部品の多くは、複数のメーカーから購入できる標準的なものです。技術のコモディティー化が進む中、機器メーカーはソフトウエアやデザインの部分で差異化を図る必要が出てきます。ある機器メーカーの知的財産権担当者は「ソフトウエアやデザインの知的財産権を積極的に取得しているApple社の姿勢に見習うべきことは多い」と語っていました。今回のApple社とSamsung社の訴訟がどう決着するかは分かりませんが、「特許やデザイン特許(意匠)などの各種の知的財産権をどのように活用していくべきか」という戦略を機器メーカーが練り直す時期に来ているのは間違いなさそうです。