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佐々木次郎
2011/12/12 12:00
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 「先輩、友達から聞いたんですが、小売店に展開しているATM銀行の企画料、一体、いくらか知ってましたァ?」。朝からアスパラ、にわか知識の自慢話ですヨ。

 「知ってるわよ、確か数10億円、40億だったか50億だったか、そんなものよ」。お局、そんなの常識とばかり、アッサリと答えます。

 「えっ、何で知ってるんですかァ、ボク、そんなに高いとは知らず、しかも、企画書を書いただけでそんなに貰うなんて、いくらなんでも、企画書つくっただけですよ、本当にビックリしました」。

 「ははは、アンタはいつでも、初めて知ることにビックリするばかり。いい、あの銀行は、大手コンピューターメーカーが企画し、大手流通小売り会社に提案した、世界初の小売店舗で銀行業をやろうという、要するに開発なのよ。それまで、誰も考えなかった、街角にある店舗の中にATM(自動現金預入払出機)を入れて、色々な料金や代金の振り込み、いわゆる小口決済を、手軽にしかも簡単にできるようにしたのよ。まあ、店舗が数千か所もあって、しかもそこに光通信が行き渡れば、当たり前に出来る業務だけど、それを誰よりも最初に考えて企画するのが凄いところ。提案された方は、それだけで売り上げが数千億円上がる訳だし、手数料収入も莫大だから、すんなり数10億円払ったってこと。例え、それが100億円だって払ったかもよ。要するに、それだけの価値があるし、それが、あの企画書の値ごろ感なのよ」。

 「そうかあ、そういうのが本当の値ごろ感なんですね。僕達が書く企画書の値ごろ感とは大違いですよね」。

 「“達”って、何よ。アンタの書く企画書とアタシは違う、そこをハッキリしてちょうだい、アタシを一緒にしないでよォ。でも、冗談はさておき、この値ごろ感って、案外、大事な話かも知れないわ。この間も、部長が悩んでいたわよ、今度の新製品の値ごろ感はいくらくらいかって、ねえ、次郎さん」。

 そうなんです、今度の新製品の値ごろ感、今までとは全くタイプが違う製品なので、部長も悩んでいるのですヨ。従来の延長線上なら、性能や付加した機能を価格に上乗せすればいいのですが、何せ、今までとは違う製品、しかも、相手のお客様も今までとは全く違う業界ですから、この、値ごろ感が分からないのですヨ。

 「そうなんだよ、これまでの値ごろ感が通用しないんだ。相手も違うし、業界の常識も違うそうだから、こっちの値ごろ感で考えると、なにか損をするような、つまり、今度はちょっと高めでもいいんじゃないか、そんな気がしてるんだよナァ」。

 長年開発をやっている部長、今度ばかりは、そう簡単には行かないようですゾ。

 よく考えますと、この値ごろ感てェやつは、一番の大事と言ってもいいほど大切なことなんですナ。開発をしていますと、当り前ですが商品やサービスの値段をどうするか、そこが問題になりますワナ。お客様に聞けば、「安いのがいい」と言うのは当たり前。誰も自分から「高くして欲しい」とは言いませんヤネ。勿論、マーケティングを通じてある程度の数字は掴むのですが、結局、最後はお客様が納得するような値ごろ感、そこが一番難しいのですヨ。  

 「ねえねえ、アタシ、誰かに聞いたんだけど、この値ごろ感を決めているのは、相対比じゃないかしら。動物の体と同じで、頭の大きさ、手足の大きさなど、その動物の体の大きさに応じて部位の大きさが決まるように、相対的な比率で決まっているって、誰かに聞いたことがあるの。それが誰だったか忘れてしまったけど、よく覚えているの。ウン、なるほどっていう感じで、妙に腑に落ちたのよ。どんな製品や商品も、全体から見てどのくらいの値ごろ感なのか、そこに共通的な数字があるのだと、教えてもらた事があるわ。さっきのATM銀行の企画書も、その企画がきっかけで事業が興り、その結果でどのくらいの収益が得られるのか、それを計算して、それをベースに決めた値段ということよ。確かに、企画書の枚数は数10ページだけかもしれないけど、得られる利益は凄いじゃない。だから、それを分母にして計算した数字なのよ」。

 「そうか、じゃあ、今度の製品を導入した相手のお客様が、この製品を使って、どのくらいの利益を得られるか、それを勘案すればいいって事だよな。どうも、今までは製品原価に上乗せ方式だったから、一回、それを否定しなきゃいかんナァ」。

 どうやら、部長の腹も決まってきたようですゾ。

 「参考にして欲しいのは、例えば、ノウハウを提供した場合、その料金と言うか代金をどう決めるかというのは、そのノウハウを得たその後に、プラスになった収益の三年分×15%と言うのが値ごろ感らしいのよ。それで考えれば、ATM銀行の場合も、逆算すれば年間100億円内外の収益が得られるという前提だったのよ。それがベースの値ごろ感だから、企画書の値段も当然の事として提示しただけのこと。でも凄いわよねェ、考えて企画した、その価値が、その値段なんだから」。

 「ようく分かったぜェ、有難うよお局。これで腹は決まったよ。今度の製品、導入すればお客様はとんでもなく儲かること請け合いなんだ。だから、その儲けの三年分×15%で計算するよ。いや待てよ、この際、20%にしてもいいのかもしれねェ。なにせ、他には出来ない製品だし、今まで参考になるようなものが無いのだから、値ごろ感を決めた者勝ちってことよ、ナァ次郎さん」。

 アタシ的には賛成ですヨ。なにせ、他には無いのですから、最初の値ごろ感をつくっちまえばこっちのもの。そう考えればいいのですヨ。

 「面白いわねェ、この値ごろ感って、売価だけじゃなくて、値引きの場合もあるみたいよ。例えば、商品の値下げをしてお客様にご案内をする時、10%くらいの値引きでは、誰も安いとは思わないじゃない。でも、この10%を30%引きにすると、誰もが『安い!』と感じて、あっという間に売れてしまうのよ。性能や機能を表明するのも同じ事かも知れないわ。性能は30%アップ、値段は同じと言えば、それまで売れなかったものも、お客様の関心を呼び、売れるようになるじゃない。逆に、どんなに性能が上がっても、30%を越える値上げは受け入れられないじゃない。どうも、この30%という数字、これが商品やサービスにおける値ごろ感の幅なのかもしれないわよねェ」。

 う~ん、今まではあまり考えなかったことですが、この値ごろ感、大事なことですヨ。

 「面白いもので、ダイレクト・メールの応答率とか、商品が売れて行くときのシェア、有名人の認知度、論評などが定評になるかならないかの境目の数字、或いは、大局が動く時の様々な閾(しきい)値は共通的に2%くらいというのも聞いたことがある。きっと、これがある意味、マーケティングの値ごろ感と言うこともできそうね。他にも、様々な業界でのマージンやリベート、利益率や金利の設定など、これらにも共通的な数字があるようよ。これって面白いわねェ。なんかアタシ、値ごろ感にハマりそう!」。

 そんなこんなで、いつもの赤提灯。今夜のテーマは値ごろ感ですヨ。

 「あらためて考えると、このような値ごろ感という数字、誰が決めたのかは知らないけど、どこの国でも同じようなものね。これって、やはり人類共通の遺伝子かも。そう考えると、値ごろ感はDNAで決まるのだから、神様がお創りになったのよ。だから、この数字を覚えておけば、新しい製品を開発したり、新しい業界に進出する場合も、何も悩む事は無い、そういう事じゃないかしら」。

 そうか、値ごろ感てェのは、神様が創った万国共通の仕組みなんですナ。海外事情に詳しいお局、あらためてそこに気付いたようですヨ。
 これからグローバルに展開せざるを得ない企業にとって、お局の言う値ごろ感、大いに参考にしましょうヤ。

 「いやあ、今日はボクの話がきっかけで、本当に面白い事を知りました。ね、先輩、ボクもたまには役に立つでしょう?」。
 アスパラが、褒めて欲しいとおねだりです。

 「まあ、そうね。アンタが言わなきゃこんな話にはならなくてよ。それはいいけれど、今日はたまたまよ。いつもアンタの話はセンミツ。千に三つしか、信ぴょう性がありゃしない。いい、千に三つ、要するに0.3%ってことなのよ」。

 「せ、せんみつだなんて、ひどいですよ。ボクはそんなに信用されていないのでしょうか、ねえ、次郎さん」。

 おっと、こっちに振ってきましたヨ。アタシも、お局ほどではありませんが、一応、コメントしときましょう。

 「アスパラ、アタシはお局のように何パーセントかを議論する気はないのサ。それ以前のことで、アスパラの姿勢のことを言いたいんだ。つまり、物事に取り組む、その姿勢のことなのサ。それは、1対8。要するに一か八か、もっと言えば、のるかそるか、そんな感じじゃないかナァ。とにかく、もっと頑張れよ」。

 これには一同大笑い。当のアスパラ本人も笑っています。

 このお店の値ごろ感、みんな承知ですから、平和な夜が更けてゆきまする…。

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