先日、横浜で開催されたLinux Foundation主催のイベント「Automotive Linux Summit 2011」を聴講して参りました。Linux Foundationが主催するイベントは多くありますが、自動車に焦点を当てたイベントは今回が初とのこと。次世代の車載情報端末(IVI:in-vehicle infotainment)において、オープンソースのLinuxが一つの候補として注目され始めていることから、開催に至ったようです。

 クルマにLinuxといえば、以前は「あり得ない」といったような雰囲気でした。技術的な側面というよりも、Linuxが採用するライセンスであるGPL、そしてLinuxが抱える特許訴訟リスクが、自動車業界には特に毛嫌いされていたように思います。

 しかし、状況はすっかり様変わりしました。2009年3月には、IVI向けのLinuxリファレンス・プラットフォームを手掛ける業界団体「GENIVI」が設立。そして2011年6月にはトヨタ自動車がLinux Foundationに参画(Tech-On!関連記事)、それを追うようにして2011年11月にはデンソーも加入を発表するなど、Linuxに向かう動きが相次いでいます。

 ドイツBMW社のHead of Infotainment Architecture Designで、GENIVIのPresidentを務めるGraham Smethurst氏の出したスライドが象徴しています。

図1

 「3~4年前は確かにクレイジーなことだったが、今は違う」(Smethurst氏)。

 ただ、「自動車業界がIVIへの基盤としてLinuxに注目し始めた」=「クルマのIVIでの採用が確定した」ということではありません。あくまで内実は「Linuxについて検討段階に入った」というあたりのようです。

 「Linuxの何が問題なのか。まさにそれを調査するために、Linux Foundationに加入した。ようやく学習する過程に入ったということ」という、トヨタ自動車 第1電子開発部 主査の村田賢一氏の言葉がそれを象徴しています(Tech-On!関連記事)。

 Automotive Linux Summit では、最後に講演者全員でのパネル・ディスカッションもあったのですが、そこでBMW/GENIVIのSmethurst氏は、自動車業界がLinuxコミュニティーに向き合うことの難しさについても指摘していました。

 「これまで自動車メーカーはTier 1のサプライヤーとしか話をしてこなかった。だから、自動車メーカーはTier1の外に助けを求めることに慣れていない。一体、誰に聞いたらいいのか分からないという側面がある。(我々、自動車業界は)こうした状況を早く変え、オープンソース・コミュニティーに向かい合わなければならない」。

 そして、トヨタ自動車の村田氏の言葉は、コミュニティーとの付き合い方について、さらに踏み込んだものでした(Tech-On!関連記事)。

「コミュニティーはあなたの会社のプログラミング・リソースではない。単に要件を渡して、誰か作って下さいと頼むのはNG」

「あなたの会社のためだけのような、非常に特殊な要件を提示するのも避けるべき。それをコミュニティーで共有することに、何の価値もない」

 ソフトウエアに疎い日本のメーカーが、いかにも陥ってしまいそうなポイントです。失礼ながら、このようなオープンソース・コミュニティーの「べからず集」が、なぜ自動車メーカーの方からスラスラと出てくるのか不思議に思ったのですが、同氏のご経歴を聞いて納得。「Cell OS」のプロジェクト・リーダーまで務めた、ソニーご出身のソフトウエア技術者の方でした。まずは社内の人材から変わり始めているということでしょうか。今後の展開が楽しみです。