このイベントでTwitterのアカウントを交換した我が社中の三人は、その後もいくつかの会合やイベントで偶然にも顔を合わせました。世代を超えて、サラリーマンの悲喜こもごもを話し合っていくうちに、互いにもつモヤモヤ感にシンパシーを感じ、「このモヤモヤ感をもっと多くの人々に共感してほしい」と、意気投合していったのです。

 「自分たちも、企業人のみんなが対話する場を作れないか」。そう考えていたタイミングで起きたのが、あの東日本大震災でした。未曾有の被害、進まぬ復興、経済への打撃、生産中止を余儀なくされる企業群――。衝撃的な体験でした。「我々はこれからどう振舞えばいいのか」「大震災の教訓から何を学ぶべきなのか」「そもそも、これからどうなるのか」・・・。心のモヤモヤ感が一人では支えられ切れない状態になったのです。

 やるせない気持ちで過ごしていた時、臼井からメールが届きました。

 「私たちのような製造業のサラリーマンや企業は、これからどうあるべきか、今回の震災を機に考えてみない?」

 対話イベントを開く誘いでした。私も山本も、二つ返事で賛成します。それが、前回のコラムで紹介した2011年5月の対話イベントです。

化学変化の触媒、ダイアローグ

 こうした対話イベントに参加するたび、「化学変化」という言葉が頭に浮かびます。社中の三人は、極めて普通のサラリーマン。「いやいや、こんな連載やっている段階で、もう十分に変わり者だと思いますよ」などと言われたら、むしろちょっぴりうれしく、心の中でガッツポーズしちゃうあたりが、これまた普通だと思うのです。

 でも、そうした普通の人々が対話イベントに集まり、自分の思いを棚卸しすると、それぞれの人の思いが混ぜ合わさって、全く違う考え方や思考回路の形成につながります。つまり、「思考の化学変化」とでも呼べばいいでしょうか。それは、それぞれの人の内部で生じる変化であると同時に、対話が紡ぎだす外部の関係性の変化でもあります。

 実は、私、学生時代にバンドを組んでいました。音楽が大好きです。数ある愛すべき音楽アーティストの一つに「Average White Band」という米国のバンドがあります。このバンドその名の通り、メンバー全員が見た目は普通の白人のおじさんたち。でも、黒人アーティストがほとんどを占めるR&Bチャートで、上位に入る人気バンドだったのです。メンバーが集まり、楽器を手にすると、黒人顔負けのリズム感をつむぎ出す。これもまた化学変化。不思議なものです。

 ソーシャル・リーマンズの世界も同じだと思うんです。普段は普通のサラリーマン。でも、多様な背景を持つ何人かが集まり、“ジャム・セッション”を繰り広げると化学変化が生じ、新しい何かが生まれる。その変化を生じさせる触媒の一つが、これまでいくつか例を紹介した対話(ダイアローグ)イベントです。

 次回は、ソーシャルリーマンズへの変身につながる一つの手法である、この「ダイアローグ」について、考え方や手法を詳しく説明してみたいと思っています。