最年少の山本は、情報システム技術者として社会人生活に足を踏み出しました。同年代にインターネット関連の起業家が多い、いわゆる「ナナロク世代」です。大企業に入社してから10年間、システム・エンジニア(SE)としてモンモンとした日々を過ごしていました。

 来る日も来る日も客先や営業部門、開発者などとの調整作業。営業担当者の中には「明日までに資料を作って」などとわざわざ無機質なメールを送ってくる人もいます。「もっと温かい文面にすればいいのに。そもそも、電話してくれればいいじゃん・・・」。

 開発部門との調整では、部門縦割りの壁が立ちはだかります。情報システムを構成する各製品の開発部門との間で、SEとして板ばさみが続きました。「同じ会社なのに自分の部門の立場ばかりを、なぜ主張するのだろう。顧客のことを考えたら、みんなで協力しあって迅速に開発を進めた方がいいのに・・・」。

 プロジェクト・マネジメント(PM)を担当するようになると、不具合が生じた際の会議などで“自分は悪くない”という責任の所在についての議論が始まることもしばしば。「この会議は犯人捜しが目的ではなく、納期を守るための知恵を出し合う場なんだけど・・・」。

 こういう場面に何度か出くわすうちに、山本は「みんなでもっと楽しく仕事をするにはどうすればいいか」を真剣に考えるようになりました。円滑なコミュニケーションや、モチベーションの引き出し方といったテーマに興味を持ち、勉強することにしたのです。ただ、どんなに自分がスキルを磨いても、楽しそうに仕事をしていない隣のプロジェクトの雰囲気までは変えられません。

 再びモンモンと過ごすうちに、「居酒屋であんなに元気なオジサマたちは、なぜ昼間は呼吸も聞こえないくらいに静かなんだろう」「あの居酒屋エネルギーを昼間の職場で発揮するにはどうすればいいのか」といったさまざまな疑問が浮かんできました。当たり前のコミュニケーションの手法を多くの人に伝え、広げるにはどうすればいいか。そう思って、社内外で行動を起こすようになったのです。

“サザエさん症候群”をなくしたい

 そして、二人の間のバブル入社世代である私、塚本。数年前に、入社以来10余年を過ごした現場の部隊を離れ、心機一転、経営企画部門に異動することを決断しました。勤める会社には、イノベーションが足りないと感じていたからです。

 「新製品やサービスが社内からわんさかと出てくるように」「上意下達ではなく、女性や若手社員も活き活きと意見し、アイデアを出し、互いに尊重し合う風土を」といった変革の志を実現すべく、経営企画部門の社内公募に応募したのでした。日曜日の夕方にサザエさんを見ながら「明日、会社に行きたくないな・・・」と思うような社員がいない会社に! 今思えば、そんな熱意だけで異動の面接をよくぞクリアできたと冷や汗ものです。

 ただ、ご想像の通り、ものごとは熱意だけでは動きません。実際に異動してみると、志を具現化する作業は簡単ではありませんでした。「提案制度」「社内ベンチャー制度実施」「ダイバーシティ」「社内インターネット・コミュニティ設立」といった、多くのテーマを実現しようと張り切りました。でも、同時並行で上司からは別の“公式”テーマを与えられ・・・。結局、志を実現する活動は、一部を除き、ほとんどが自発的テーマとして推進することになりました。

 どれも、短期で成果を出せるテーマではないと知りつつも悪戦苦闘する毎日。気がつけば目を引く成果を出せないまま、時間ばかりが過ぎていきます。上司からも、「君の業績をどう評価したらいいんだ」「もっと他のテーマも担当して」と、心配される有様でした。

 そこでふと思ったのが、他社の動向です。他の会社も同じ悩みを抱えているのだろうか。解決の糸口をつかむため、いそいそと他社の人々と交流を始めました。ある時はセミナーに参加し、またある時は組織改革の交流会に足しげく通ったのです。ところが、他の会社の話をただ聞いただけでは、どうもしっくり来ません。十社十様の取り組み、成功例・失敗例を耳にするたびに、ますます悩みが深くなっていったのです。山本流に言えば、“モンモン”と過ごす日々でした。