(3)中国の医療クラウドの商機を分析

1. 中国の医療クラウド産業のニーズ

 中国の医療改革の目標から、人々の医療サービス利用については将来、国民電子カルテの創設と薬物流通管理システムの創設が級別医療サービス・システム構築の基礎になると見られる。多数の医療関係機関で大量のデータを管理、共有、活用していくことから、クラウド・コンピューティングには大きなニーズがある。長期的には、医療改革の目標である予防健康管理を達成するため、国民健康データバンクと分析予測システムが必要になる。大量のデータを収集、統合、分析する必要があり、ここにも医療クラウド産業のニーズが出てくる。

 中国の医療産業における情報システムの状況だが、現在約90%の病院が既に標準の病院向け情報システム・プラットフォームを採用している。しかし、リソース情報の共有化は進んでいなし。依然として3000カ所以上の病院では、ほかの病院や診療所と情報交換可能なデータバンク・システムが設置されていないと推定される。このほか、各病院のサーバー保有率はきわめて低い。ハードウエア保有率は米国の病院の約1/20であり、ハード面でのインフラ設備の水準を今後高める必要がある。

 改革の要点から見ると、電子カルテの標準の確立および情報共有プラットフォームの構築が将来重要になると考えられる。現在のところ国家制定の標準はないが、いくつかのテスト計画が一部の省で進められている。都市部もしくは省単位で、次第にこの目標が達成されていく見通しである。

 冒頭に述べたように、現在中国には約1200カ所の三級甲等病院があり、これらの各病院で少なくとも1000万人民元を投じた情報システムの更新が必要となる。従って、将来少なくとも120億人民元の投資が、医療システム・プラットフォーム、電子カルテ・システム、中央サーバーなどに対して行われる。IT企業にとっては、またとない巨大な商機が到来する。

 中国現地のIT企業は、医療システム・サービスと関連ハードウエア設備の供給において、技術的にもソフトウエアの面でも、他国・地域の国際的企業と比べて依然として能力が著しく劣っている。中国衛生部の資料によると、現在病院の情報化に対する投資額は、病院の総収入の約0.1%しかない。一方、病院のITシステムの安定性と安全性に対する要件は高く、病院の情報専門スタッフに対する新規採用ニーズも将来上昇すると見られる。中国は過去において医療情報システムの設置・維持・保守の経験に乏しく、医療保険情報システム、医療情報交換プラットフォーム、個人電子カルテ、医薬管理システムなどの分野におけるノウハウも不足している。

 ただ、地方政府が情報システムを調達するとき、特にハードウエア設備を調達する場合は、通常は中国国産品を購入する傾向がある。このため、聯想(Lenovo社)や東軟(Neusoft社)など地元の大手企業がハードウエア設備販売で優位な地位を占めている。