そこで中国は、第12次5カ年計画の期間中に社会福祉関係のシステムを強化し、サービス指向の政府を目標とする中央電子政務システムの創設を計画している。サービス指向の電子政務システムとはユーザーを中心とするシステムである。サービス指向の統合型情報交換プラットフォームによって統合・相互接続された共有システムの構築を、究極の目標としている。このように、これまでの関税や財政面における電子政務システムの推進から転換し、今後は社会保障、医療情報、土地管理といった国民の情報・社会サービス向上のためのシステム構築に重点を移していくことになる。

 また、元国務院信息化弁公室(国家情報化の指導機関)を通じて、北京、上海、天津、内モンゴル、浙江、湖南、杭州、武漢などの地域で中央と共用の統一電子政務システムの導入を促進するとともに、地域を越えた情報共有と業務協力による統合アプリケーション・システムも構築しようとしている。今後も引き続き、集中化情報センターを目指して共用中央データバンクとプラットフォームの方式を確立し、中央電子政務システムの共有機能と効率を高めていく。

 さらに、地方の電子政府においては、行政業務の電子化と情報提供が中心だった過去の取り組みから、地方産業の活性化のための基盤構築へ転換しようとしている。地方政府のプラットフォームを通じて情報を収集・分析した後、そのデータと結果を提供することで、地方の産業クラスタ形成を促進していく計画である。例えば、これまでは西部地区の経済を発展させるため、成渝経済区(重慶市の31区・県と四川省15市が含まれる)を選定して重点区域とし、地域を超えた地方政府間の資源統合などの作業を進めてきた。同時に、産業の成長促進を目標とし、経済特区内政府の電子政務システム・データベースとプラットフォームを統合することで、産業情報を企業に提供してきた。将来は、各地域の投資コスト削減と情報流通の促進のため、地域経済における共用データセンターの構築を目指す。データの相互運用基準を高め、情報の共有能力を強化していく。

 中国の電子政府の状況を見ると、各政府機関がウェブサイトを有している比率は高いものの、格差が顕著であることがわかる。区・県以上の地方政府のウェブサイト保有率が90%であるのに対して、郷・鎮政府の保有率はわずか20%しかない。また、電子政務システムの業務処理能力不足が行政の効率を悪化させている。部門間の業務協力機能と情報共有機能が欠けている上に、電子政務システムの運用維持管理能力と人材不足がボトルネックになっている。今後は、第12次5カ年計画のもとで,高度に統合、共有、相互接続された中央政府と共用のプラットフォームを実現していく必要がある。中央省庁の数も省市政府の数も膨大な中国にとっては、クラウド技術こそが情報の相互接続と共有機能の強化、資源の運営維持とコスト削減を支援できるキー・テクノロジであると言える。

図1 中国の電子政務システムの構造図
出所:工業技術研究院IEK(2011年6月)
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(2)中国医療改革の重点政策

 中国は1978年から始まった改革開放により、経済面では顕著な成果を上げた。一方、医療制度の改革はこれまで相対的に遅れていた。人々は医療サービスを受ける上で多くの問題に直面している。特に農村地区では、大部分の患者は自費もしくは自発的に加入する商業保険により、日増しに高くなる医療費用を支払わなければならない状況にある。個人の医療費の自己負担率は92%にものぼり、世界平均の44%を大きく上回っている。医療賠償制度の不備や、都市部と農村部間の医療資源分配の格差によって、ハイテク設備を備えた中型・大型総合病院だけが常に大混雑の状態にあり、人々が医者にかかる不便さに拍車を掛けている。