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余計なお世話

佐々木次郎
2011/11/28 12:00
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 朝からお局が、「ねえねえ、今朝、気付いたんだけど、駅のホームや公共施設にあるエレベーターの音声案内、『良いこの皆さん、エレベーターで遊ばないようにしましょう』って言うのよォ。アタシ、思わず笑っちゃった。だって、良い子はエレベーターで変なことしないでしょう。それなのに『良い子の皆さん』って、本当は『悪い事をしそうな子供たち…』って言えばいいのよォ」。

 そうなんです、アタシも聞いたことがありますヨ。駅や公共施設のエスカレーターで流れている、あの音声案内なんですナ。お局が言うのを聞いて、あらためて思うのですが、やはり変ですヤネ。

 「でしょう? 優しい女性の声で、『良い子の皆さん、エスカレーターで遊ぶのは危険ですから止めましょうね。他のお客様のご迷惑になりますよ』って、繰り返し流しているけれど、なんで『良い子の皆さん』って言うのかしら。良い子って、一体、どのような子を指しているのか、そこが分からないじゃない。おとなしくて、動きの少ないじっとしているのが良い子なのか、活発なのが良い子なのか、勉強ができるのが良い子なのか、それとも、勉強もできて、活発で、親孝行で、人の言うことをしっかりと聞いて、歯並びが良い、そういう子なのか、電車に乗ってお年寄りが居たら、ちゃんと席を譲って、シャツのボタンもちゃんとして、そのシャツもズボンの中に入れて、チャックもちゃんと閉めて、横断歩道ではまず右を見て、次に左を見て、もう一度右を見る順番を守り、安全を確認して一呼吸してから渡って、笑う時はハニカミ王子のようにして、汗を拭くときはハンカチ王子の…、ふうっ、一体、良い子って、どんな子なのよォ!」。

 ははは、お局が一気にまくし立てていますワナ。

 この音声案内、多分、言いたいのは「危険性の告知と注意」ということでしょうが、もしそうだとすれば、これは、「危険だからシッカリと手摺につかまってくださいね」と言えばそれでよいのですヨ。
 
 「そうそう、本来、伝えるべき点はそこなのに、なんで『良い子の皆さん…』で始まるのよォ! 大体、エスカレーターで遊んだり、他人に迷惑を掛ける人は、子供だろうと大人だろうと悪いのだから、本当は『悪い人の皆さん…』と言えばいいじゃない、それを何で『良い子』なの? それに、大体、しつけられた子供はそんなことはししないわよ。だから本当は、『こら、悪ガキ、危ないことをするな!』と言えばいいのよォ!」。

 お局も、段々過激になってきましたヨ。

 ここで、アタシやお局が気にするのは、その言い方に見え隠れする、何かあった時の、管理者側の責任を回避しようとする思惑ですワナ。大袈裟かもしれませんが、注意する側が、その後に、変なクレームが来たり、事故があったときに困らないようにする、一種の防衛本能と言い換えてもいいような、そんな考え方がそこに見え隠れするのですヨ。
 どうも、注意を促すような大事な場面で、責任回避的防衛本能を働かせてしまっているのではないでしょうか。

 「確かに、丁寧な物言いは公共的事業者の常識サ。でもよォ、『スミマセンが危険なことは止めてください』と言うのと同じで、管理者側が何かトラブルのあることを前提にして、そのトラブルに対応する当事者がハナから謝るようじゃあ、おかしくないかァ。ビシッと、注意を促せばそれでいいのによォ、何か、最初から腰が引いているような気がするぜェ。言うべきは、危険ことはしてはいけない、間違いは間違いと、ちゃんと言えばそれでよし。必要なのは、適正なことを的確に伝えることじゃないか」。

 部長の言う通り、敬語の使い方など、日本語特有の言い回しや難しさもあるのでしょうが、そもそも、注意を促すことは、相手の為になることですヨ。もっと言えば、危険を回避したり間違わないように、しっかりと教えてあげることが、肝心なところですヤネ。

 「で、アタシ、今度のことであらためて気付いたんだけど、この国は、このような余計なお世話が多いと思うのよ。そう、余計なお世話よ。だって、欧米のエスカレータで、音声案内なんか殆ど無いわよ。公共施設を使う時、基本的なことを教えるのは家庭の役目。公共機関や事業者が、わざわざ『良い子の皆さん…』なんて、有り得ない。これって、日本だけの事じゃないかしら」。

 ふ~ん、そう言えばお局は帰国子女。生れてからずうっと外国暮らしですから、そうなのかもしれませんヤネ。

 「これって、余計なお世話、それだけの事なのよ。何も、音声案内で言う事じゃないのよ。何が目的なのか、それが分からないし、もしもあるとしたら、次郎さんの言う、責任回避じゃないかしら。そして、実はそれがかえって利用者の為にならない事に繋がっているのかもしれない、そう思うのよ」。

 ふむふむ、お局の意見、中々深いところに来ましたヨ。

 「何か事故があった時、その製品なり装置に欠陥があれば、当然、メーカーの責任は問われるわよね。でも、この国では、危険性をしっかりと伝えないような風潮があるように思うの。外国では“Watch your step!”、そう言うだけ、良い子なんて絶対に言わないわよ。要するに、危ないから気を付けろ、それだけを伝えるのよ。危険なところで遊ぶのはダメなことだし、もしもそれで怪我でもしたら、その子の責任なのよ。親が付いていようがいまいが、その子が自分でちゃんと気をつけないとダメなのよ。それが、本当の注意なのよ」。
 
 う~ん、お局の言う通り、“良い子の皆さん”なんて言い回し、それじゃあ、危ない状況が伝わりませんヤネ。

 「もしも、アメリカでそんな言い回しの音声案内があったら、訴えられるかもしれないわよ。『ウチの子は悪い子だから関係ないと思っていた』とか、『良い子ばかりに注意を促している』とか、要するに、余計なお世話で、本質が消えてしまうのよ」。

 確かに、お局の言うように、多分、良かれと思って流している音声案内ですが、丁寧というかサービスのつもりか、余計なことを言って、かえって本質が伝わらなくなってしまうこともあるのですヨ。
 
 「余計なお世話、言い換えれば、余計な心配かもしれねェ。このあいだ聞いたんだが、最近の子供、ナイフで鉛筆を削れねえらしいぜェ。何でも、学校でナイフを使うなんざァ危ないって、余計な心配が先に来ちまうのさ。生徒が怪我でもしようもんなら、学校の責任になるってんで、ええ、冗談じゃあねェよ、誰もナイフを使えないんだってサ」。

 そうそう、部長の言うように、管理者側が、余計な心配をするあまり、何もさせなくなるなんて、やはり変ですヨ。

 そんなこんなで赤提灯。今夜は余計なお世話です。

 「いやあ、先輩が怒るのも分かりますよ。エスカレーターもそうですが、この国は余計なお世話や心配が多いのです。ボク達の小学校では、運動会の時、親と一緒に昼食のお弁当を食べることができませんでした。児童は児童だけで皆一緒に食べて、親とは一緒に食べることを禁止されていたんです。ボクの親は、それは変じゃないかって言ったら、先生が『親のいない子や、親が来れない子もいるので』と、別々にしてしまうのです。『じゃあ、親が居ない子と一緒に食べよう』とボクの親が言ったら、今度は『誰が誰の親と食べるか、それを決めるのが難しい』って、それを聞いたウチの親、切れちゃいましたよ」。

 アスパラが言うのを聞いてお局、「何ィ! その小学校、どこだァ! 何でそんな事を言うのよォ! いいじゃない、どんな事情があろうとも、親子みんなでお弁当を食べればいいじゃない、それが教育ってもんでしょうが! もう、変な心配ばかり、本当に余計なお世話や心配ばかりで、肝心なことを忘れてしまってる!」。

 黙って聞いていた欧陽春くん、「最近の中国でも、そんな風潮が出て来ましたが、基本的には自己責任ですよ。子供の時から、怪我をするのは自分が悪いと言われますし、小さな時から、そう意味では痛い思いをして、それが教訓になり大人になって行くんです。日本に来て、何から何まで手取り足取り、それは親切でいいのですが、それに慣れてしまうと、ちょっと緩くなるというか、自分で考えることが少なくなり、かえって不注意になるのかもしれません。それに、テレビのニュースなどを見ていると、本当はその人の自己責任なのに、管理者側の責任にするような事件が結構あるように思います。本来、親がしつけなければいけないところを学校の責任だというようなことです。これも、学校側が余計なお世話をするばかりに、本来の親の責任が見えなくなった結果ではないでしょうか」。
 う~ん、やはり日本の余計なお世話、少し考えなくてはいけませんゾ。

 さてさて、今夜はこのへんでお開きに致しますか…、と突然アスパラが、「先輩、余計なお世話ですが、先輩は結婚しないのですか? ボク、心配です!」。あ~あ、もっとも余計なお世話を言っちまいましたヨ。

 ここで、お局、「ふふふ、アスパラ、心配してくれて有難う。でもね、アタシより、あなたの方が心配よ。アスパラ、彼女できたの?」って、切り返しはさすがです。

 さあさあ、帰りましょう。お気を付けて…。ちゃんと家に着くまで、自己責任ですヨ。

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