さて、韓国の企業は、Samsungに代表されるように、果敢な経営戦略と思い切った設備投資でDRAMや液晶パネルなどの製造で世界のトップに立ちました。スマートフォンの販売でも世界市場でのシェアを急激に高めています。

 ただ、SamsungのスマートフォンはiPhoneのコピーであると、Appleから訴えられているように、韓国は画期的な製品を開発したり、新しいデザインコンセプトを提案する創造性の面ではさほど存在感はありませんでした。では、なぜISSCCでの論文が増加しているのでしょうか。

 ちょうど先週、産学連携を推進して日本の国家プロジェクトを運営されている方々がお越しになり、同様の問いかけをされました。

「このまま国家プロジェクトに投資し続けて良いのか」

「日本の半導体は弱体化しつつある」

「大学発のベンチャー企業が育っていない」

「ISSCCに採択される日本の大学の論文は韓国よりもはるかに少ない」

 日本の国家財政が危機的な状況では、予算の聖域はありません。国として、半導体に投資するか再考するべきというのは、当然だと思います。ダメ押しだったのは、韓国や台湾がISSCCで発表している論文のリストを見せられ、
 「ISSCCで最も多く論文を発表している組織は韓国の大学(KAIST)なのはなぜか」

「ISSCCで発表される韓国や台湾の大学や国立の研究機関の論文は、高価な最先端の微細加工技術を使っていない」

「むしろ130ナノメートル、90ナノメートルといった、一昔前の安価な加工技術を韓国や台湾の論文は使っているおり、日本は資金力ではなくアイデア勝負で負けているのではないか」

 実際に韓国の論文を見てみると、企業も大学もずば抜けて新しいコンセプトが提案されていることは稀です。画期的なコンセプトを提案する研究成果に関しては、アメリカや日本が秀でています。

 韓国の論文は、アイデアはずば抜けてはいないかもしませんが、様々な技術をうまく組み合わせて、世界トップの性能を実現する、という内容が多いのです。

 ISSCCのような工学、エンジニアリングの分野では、斬新なアイデアも大事ですが、技術を組み合わせた結果として、どのような性能、電力、コストを実現したかも大事です。

 それぞれの技術は、かつて誰かが提案したものでも、数多くある技術から最適な技術を取捨選択し、組み合わせることで、世界最高の性能を出しても良い場合もあるのです。

 つまり、イノベーション(Innovation)により画期的なアイデアを創造しなくても、リノベーション(Renovation)で既にあるアイデアをブラッシュアップするのでも良い場合もあるのです。ISSCCで発表される韓国のデザインの技術というのは、そういったリノベーションが多いと感じています。

 イノベーションを野球でたとえるとホームラン。リノベーションは、①シングルヒットで一塁に出て、②バントで二塁にランナーを送って、③シングルヒットを打ち、④二塁走者がホームに生還で一点取ること。派手さは無いけど、リノベーションでもホームランと同じ一点じゃないかという、良い意味での割り切りを韓国の技術には感じます。リノベーションの例を挙げましょう。