このコラムが出るころには上海もすでに晩秋。秋の上海といえば何とっても「大閘蟹」と呼ばれる上海ガニのシーズンなのだが、今年の秋は「員工旅遊」、すなわち社員旅行のシーズンとして印象に残った。なぜかというと、「社員旅行で海外に行きます・行ってきました」という話をこの秋、行く先々で聞いたからだ。

 昨年までは海南島や桂林など中国国内のリゾートや観光地に出かけたという企業が多く、それだけでも景気がいいなあと思わされたものだが、今年は「東京・日光・富士山・箱根の旅」「ソウルと済州島カジノの旅」「香港ディズニーランドとマカオで海鮮三昧」等々、海外を選んだという企業がとにかく多かった。例として挙げた3社はいずれも社員50人前後の中小企業だ。もちろん、蘇州や杭州など上海近郊で済ませたという企業も少なくないのだが、社員旅行の行き先にも、中国経済の今が映し出されていると言えよう。

 さて、EMS/ODM業界に目を転じてみると、EMS世界最大手の台湾Foxconn(フォックスコン=鴻海)社にとって11月は、今年も「表彰の秋」だったようだ。

 当社のウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)でも「フォックスコン太っ腹! 優秀工員200人にiPhone 4と台湾旅行 現金6万円も」と題して伝えたのだが、フォックスコンは11月19日、中国17省市の26工場にいる120万人のワーカーの中から優秀者を選出して表彰する式典を開催。優秀工員に選ばれた200人が、賞金5000元(1元=約12.3円)や、同社が生産を手掛ける米Apple社のスマートフォン「iPhone 4」などの賞品を、同社トップの郭台銘・董事長から一人ひとり手渡しで受け取った。同社は昨年10月にも優秀工員の表彰式を開催しており、秋の年中行事の一つになりつつある。

 賞金の5000元という金額、日本円にすると昨今の超円高も手伝い約6万円となるが、残業代を含めた月収の約2カ月分に相当する。さらに200人に支給となれば、会社側にしてみれば、このボーナスだけで100万元の支出になる。

 さらに賞品のiPhoneが、最新機種のiPhone 4Sでなく1世代前のiPhone 4であることも興味深い。台湾の市場や業界では、フォックスコンがiPhone 4Sの生産について、ネットブックで名を馳せた台湾ASUSTeK社から分社したEMS企業、台湾Pegatron社に受注の約1割を持っていかれたと観測している。それでもフォックスコンの受注量は、2011年第4四半期のみで1800万~2250万台にも上るとされる。

 郭氏は11月4日、フォックスコンが携帯電話の生産拠点として整備を進めてきた河南省鄭州で開かれた現地政府主催の記念式典に出席。この中で、同社鄭州工場には現在11万人の工員がおり、携帯電話の生産能力が1日あたり20万台に上ることを明らかにしている。優秀工員に授与した分を生産するのに、わずか2分足らずしかからない計算だ。200台程度の調達は問題ないのだろうが、11月末現在、中国ではまだiPhone 4Sが正式に発売されていないことへの配慮や、何より消費者への供給を優先とのことなのだろう。

 ちなみにフォックスコンは、この鄭州工場で生産する携帯電話の生産能力を、2013年には年間2億台という途方もない数にまで引き上げることを目標にしているという。

上海浦東の陸家嘴に建設されるオフィスビル「Foxconn Building」予定地。米グリーンビルディング審議会(USGBC)が定める環境に優しいグリーンビルディングの規格「LEED」基準をパスしているという。2014年竣工予定。周囲には88階建ての金茂大厦、101階建ての上海環球金融中心など超高層ビルが建ち並ぶ