電気自動車(EV)

 2010年4月、交換式EVバッテリーで世界的に知られる米国のBetter Place社は、中国最大の民族系自動車メーカーである奇瑞汽車(Chery Automobile)と覚書を交わし、両社は世界最大の自動車市場でのEV技術開発に共同で取り組み、バッテリー交換式EVの試作車を開発すると報道された。関連記事では、両社はバッテリー交換式EVの試作車を開発後、中国地域政府とのEV実証プロジェクト実施にも進む予定であると書かれていた。

 その計画の通り、一年後の2011年4月28日、Better Placeは中国南方電網とバッテリー交換式EV普及で戦略提携すると発表した。まず中国南地方の最大の都市である広州市で、年内に交換ステーションや人材育成のための合同教育センターを設けるという。

 中国南方電網は、フォーチュン・グローバル500にも入った中国No.2の送電会社である。サービス・エリアは、中国No.3の大都市広州市を中心として、中国南部5省、100万平方キロメートルに及び、サービス対象者は2億3千万人にものぼる。今回の提携は、中国南方電網のサービス・エリア内での電気自動車およびインフラ分野における共同プロジェクトとして重点を置いていたという。

 これにより、中国におけるバッテリー交換式EVの普及は加速される見通しだ。中国自動車メーカーと中国の電力会社の後押しとなるのは、中国政府がEV産業を国家戦略レベルの新たな分野の一つと位置付けており、世界最大のEVの開発・生産国になる国策を持っていることだ。中国は、ガソリンエンジン技術を飛び越え、EVで自動車産業を育成するため、さまざまな投資や奨励金の形で支援を行っている。そういった官民一体化によりEVを発展させる環境づくりは、他国では例が見れないほどである。

 グローバルの自動車関連企業としては、中国へのEV事業を展開するのは、大きな発展チャンスである。EVのインフラ整備だけではなく、自動車メーカーが中国で本格的にEVの生産に乗り出す姿勢を見せている。昨年の初め、ドイツDaimler社は中国の自動車メーカーBYDと共同でEVを開発すると発表した(Tech-On!関連記事)。ほかにも、フォルクスワーゲン、日産自動車、ゼネラル・モーターズなどが、中国の提携パートナーとEVの生産および販売を進めている。

深せん市の運営中のEVタクシー
「零排放」=排気ガスがゼロ

高速鉄道

 上記の例と違うパターンとして、中国自身が市場で技術を交換する政策で外国の技術を取り入れ、それらを融合して独自の技術やブランドを創出しようとしている例もある。

 高速鉄道はその事例の一つである。200~250km/hの技術については、日本の川崎重工やドイツのシーメンズ、フランスのアルストム、カナダのボンバルディアの4社と提携して、それぞれの技術を導入していた。250km/h以上に関しては、それらを融合して自主開発を目指している。

 様々な議論や見方があるが、他国の技術を総合的に利用できる視点からみれば、知財などの問題がなければ、それぞれの強みを活用し、より優れたシステムが作れる可能性があると思われる。その意味では、これもイノベーションの実験場とも言えるだろう。

 スマートシティ、電気自動車、高速鉄道といったエリアに限らない、ほかの多くのエリアにも似ているような現象が起きている。多くの企業、多くの新技術は中国で集まり、新たな世界を開拓している。これから、多くのイノベーションが生まれる可能性が十分あると予想されている。中国は最大のイノベーションの実験場というのは過言ではないだろう。

 実験場というと、もちろん実験であるので、成功があり、失敗、または挫折もある。中国でも、海外の各国でも、中国の企業でも、日本の企業でも、未来をチャレンジすることは一番重要であろう。