前回は、グローバル企業が競って中国へ先端商品を投入することで、中国ではどのようなジャンルの商品でも多くの国からの多数ブランドが揃っており、また複数の技術方式その商品に存在するのであればば、いずれの方式も必ず揃っており、そして多くのメーカーが競争する中で、新たな方式や新たな機能なども生まれ始まっていると紹介した。今回は、グローバル企業が、数年先を見据えて先端技術を積極的に中国へ投入することから、前回に引き続き、中国は世界最大のイノベーション実験場になっていることを紹介する。

スマートシティ

 まず、目を奪うのは、中国における「スマートシティ」のブームだ。エコ、省エネ、創エネ、蓄エネをキーワードとするスマートシティ・ビジネスは、世界のインフラ市場における最大の成長分野であり、世界各地で巨大なプロジェクトが展開されている。今後20年で約4000兆円近いという巨大市場で、日本企業は環境やエネルギー分野など強みの技術で商機をつかもうとしているが、その主戦場は日本国内ではなく、海外、特に中国である。

 世界各地で展開されているスマートシティ建設のプロジェクトは、昨年時点で100を超えていた。それが2011年は1000にも迫る勢いである。特に中国では、智能(=スマート)城、生態(エコ)城、知識城、智慧城など、さまざまな呼び方があり、中国の各地に存在するスマートシティプロジェクトは実にもう500近くにもなりそうだとの報道がある(Tech-On!の関連記事)。

 その中で、もっとも知られてるのは「天津エコシティ」である。中国とシンガポールの政府レベルで提携する大型プロジェクトだ。天津の郊外に、2020年には35万人の新たな都市を作る計画だ。目標も壮大である。再生可能エネルギー比率が20%以上、ゴミ回収利用率が60%以上、汚水の100%再利用などを掲げている。天津エコシティは、中国建設部がモデル都市とする13カ所の中で、いち早く注目されていた。その背景には、天津に世界ナンバーワンの「環境モデル都市」を建設しようとする、中国政府の戦略がある。シンガポールの企業はもちろん、アメリカのGEなどが参加。日本からも、不動産、商社、電機メーカーなど多くの企業が参加するという。

天津エコシティの入口正門
後ろに長く伸びているクレーンからその建設最中の様子が感じ取れる

 もう一つ代表的なのは、中国・河北省唐山市の曹妃甸(そうひでん)地区にある「曹妃甸エコシティ」だ。面積はさらに広く、川崎市の全面積、日本最大のニュータウンとなる東京の多摩ニュータウンの五つ分に相当する150平方キロメートルという。2020年までに、80万人の都市をめざして、開発が進んでいる。

 曹妃甸エコシティの建設においては、日本、スウェーデンなどの技術を積極的に取り入れ、海外と密に連携している。日本は、唐山市と提携し、「日中エココミュニティー」と名付けられた街区(約5平方キロメートル)の開発において今年6月に調印した。

 なぜ、海外の企業は、競って、中国のスマートシティの建設に参入しているのだろうか。日本をはじめとする海外のグローバル企業は、自分の技術力を世界に見せるショーケースとして、スマートシティに注力しているのだ。

 スマートシティは毎日のように新聞に登場し、よく耳にする言葉だ。しかし、スマートシティはあくまでもコンセプトで、明確な定義がなくて、立場によってとらえ方も違うというのが現実のところだ。もともと、アメリカ大統領が、IT技術を駆使して電力を効率に利用するスマートグリッド構想に重点的に投資を行うと発表して、大きな話題を呼んでいた。その後、このスマートという言葉が、スマートハウスやスマートコミュニティへ拡大し、現在はスマートシティへ、つまり都市の活動に関わるすべてがスマートシティの範囲に入ったようだ。電力網はもちろん、自然エネルギーの活用、エコな環境作り、住宅やオフィスと関連するグリーンビルやスマートビルまで広がっている。したがって、全体としても、各々の技術としても、まだ模索中といったところである。そのため、世界各地では、実証や実験を目的とするスマートシティが一気に急増した。

 スマートシティのコンセプトは美しいが、実際の立ち上げ、建設の進行は簡単ではない。行政や企業、住民、そして資金や技術、さまざま要因に制限されている。

 中国の政府主導型のイノベーション創出の体制の中においては、大型プロジェクトが立案しやすいという背景もある。それが、他国と比較して中国においてスマートシティがいち早く相次ぎ誕生してきた原因の一つでもある。中国は、スマートシティの建設で海外の技術を取り入れ、新たな産業を育成するのが一番の狙いとみられる。

 もちろん、500カ所もあるというのは、スマートシティバブルの気配もある。投資と開発資金、特に不動産の投資が集まりやすいため、太陽光発電パネルを導入して、エコシティの冠を付けるところもあるかと思われる。しかし、天津エコシティと曹妃甸エコシティは格別な存在で、本物中の本物だ。

 グローバル企業としては、スマートシティを支えるエコ技術やエネルギー技術に関するイノベーションの創出において、特にスマートシティとして重要である管理と制御システムの開発において、技術が成り立つための検証、利用者による利便性の検証などが欠かせない。規制が厳しく経済状況も厳しい先進国では、大規模なスマートシティ、特に空き地から本格的なエコシティを建設するほどの余裕はない。そこで、新興国と連携して、イノベーションを創出しようとしているのだ。

 スマートシティは世界経済の発展をけん引する原動力と期待され、あらゆる産業界に大きな影響を与えている。産業別に見ると、エネルギー、環境、電機、自動車、機械、IT、建設、素材、医療、観光など、スマートシティとは関係のない産業が見つからないほどだ。例えば電機業界というと、スマートメーターや省エネ家電、燃料電池など、IT業界というとクラウドコンピューティングで代表されるグリーンIT、自動車業界では電気自動車や燃料電池自動車、充電設備、建設業界ではグリーンビルディングなど、挙げていけばきりがない。

 多数の海外メーカーが参入している世界最大規模の中国スマートシティの建設においては、参加する各国の企業から最先端の技術が投入され、さまざまな検証実験が実施されている。これから、新たな都市、新たな環境づくり、新たなライフスタイルがどんどん生まれるのは間違いないだろう。

 その意味では、中国は最大のイノベーションの実験場というのは過言ではない。スマートシティに限らない、電気自動車、高速鉄道など多数のエリアも、イノベーションの実験場になっている。