(6)セミナーでの例

 N社の中間管理職の方々を対象に、最上流工程のセミナーをした時のことです。私は「今、説明した最上流工程を、職場に帰ってどのように部下の方に説明しますか」という演習テーマを出しました。それに対して、ある女性の課長さんが「私なら次のような経験を話します」と言われました。

 「私は肌荒れで困っています。Uターン前の上流工程では、①病院へ行って、薬をもらう、②化粧品を変えてみる、③エステサロンへ行く、三つの解決方法を考えました」と言われました。「しかし、最上流工程で、よくよく考えてみると、私の毎日は仕事中心で、生活が不規則であること、食事が偏ること、睡眠が十分にとれていないことが思い当たります」と言われ、「Uターン後の上流工程では、④規則正しい生活をする、⑤食事と栄養のバランスに気を配る、⑥睡眠を十分とるようにする」という方向があることを示されました。

 ①病院、薬、②化粧品、③エステサロンという「肌荒れ問題」の解決の方向と、Uターン後の④規則正しい生活、⑤食事、栄養、⑥睡眠という解決の方向とは、随分異なりました。肌荒れを身体の外側から直すのと、身体の内側から直すのとの違いに気付いたことでした。こうした「Uターン過程」の必要性がご理解いただけたら、あなたも最上流工程にトライしてみませんか。

(7)CAPSSというシステムでの例

 かなり前に、共同研究者の竹嶋徳明氏(故人)と、CAPSS(Computer Assisted Problem Solving System)という人工無能型のシステムを開発したことがあります。

 人工知能型のシステムとは、人工知能(考える機能、例えば推論エンジンなどは著名)を持たせたコンピュータ・システムですが、人工無能型のそれは「電気紙芝居」と揶揄されたように、ただ記憶させたものを取り出すような機能を中心としています。

 このCAPSSというシステムは「視座・視点・価値観」などのメタヒント(超ヒントとか、ヒントのためのヒントとかの意味)を記憶させておき、グループ・ディスカッションで、このシステムから視座リスト、視座図、視点リスト、視点図、価値リスト、価値観図などを取り出し、画面に映し出し、発想や検討などに用いるものでした。言うなればこのCAPSSは、まるでCAMSS(Computer Assited Metahint Serving System)でした。

 開発したこのシステム使用例ですが、「大手メーカーS社の配送センターの設置場所を考える」というテーマを取り上げ、日本地図と、S社の工場の所在地、需要地、倉庫などと、運送ルート、運送手段(船とトラック)、運送量、費用、運送の頻度、運送物の形態などを、竹嶋氏と検討したことがありました。

 細かいことは忘れましたが、「配送センターをどこに設置するか」のテーマは、各種のモデルによる案(輸送量と輸送距離の積を用いるモデル、生産地と需要地のルート距離を用いるモデルなどからセンターの位置を決める案)や商圏モデル案(競争相手を含めた商圏を計算するモデル案)、外注案(アウトソーシングする案)、子会社設置案などの考えが出て、それぞれの案のメリットとデメリットを比較しました。

 Uターン後、「どこに設置するか」のテーマが、「なぜ設置しなければならないか」の問題に変わりました。問題(テーマ)の見直しになったことが、私にはとても印象深く心に残っています。

 「最上流工程」で多面的に検討することによって、初めに設定した問題が真の問題ではなく、別の視座や視点や価値観から眺めると、全く別の問題が見えてきたのでした。

参考文献:「CAPSS」、情報処理学会誌、18巻、2号、1977年