ここ数年のピーク電力需要は天然ガス発電で乗り切る

  中長期的には日本のエネルギー需給に心配はない,と述べてきた。しかし,ここ数年のピーク電力需要は別である。これを節電だけで乗り切るのは,地域・季節によっては難しいだろう。これを解決するには,最新の天然ガス発電所建設が現実的である。東京都の試みは理にかなっている。

  天然ガスにかぎらず,化石燃料を使う発電は,近年は悪者扱いされてきた。理由は二つ。一つは二酸化炭素排出である。もう一つは化石燃料枯渇の心配だ。

  二酸化炭素排出を理由に化石燃料を排除する必然性はない。これはすでに述べた。二つ目の化石燃料の枯渇,これも現実にはないと言っていい。

  あと40~50年もすると石油は枯渇する。40~50年前から,いつもこう言われてきた。この点,高速増殖炉の実現時期と似ている。50年後には高速増殖炉が主役になる。50年前からずっと,こう言われている。どちらも,いつまでたっても,現実には起こらない。

  化石燃料の埋蔵量は採掘コストの関数だ。「お金さえかければ以前には考えられなかった所で石油が採れる」(田中伸男,「ピークオイル」,『日本経済新聞』夕刊,2009年1月30日付)。石油の値段が上がれば,お金をかけて採掘してももとがとれるだろう。だから採掘の難しいところにも採りに行く。一方石油の値段が上がれば,他のエネルギー源,たとえば太陽電池の価格競争力が増す。太陽電池の普及が促進される。そうなると石油の需要が減る。枯渇時期は先に延びる。こうして,いつまでたっても枯渇しない。

  石油が石炭に代わって広く使われるようになった理由は,石炭が枯渇したからではない。「石器時代は石がなくなったから終わったのではない」(田中伸男,「石器時代はなぜ終わったのか」,『日本経済新聞』夕刊,2009年2月6日付)。

  新しい化石燃料も次々に見つかっている。オイルサンド,メタルハイドレード,オイルシェール,などなど。米国内では岩盤層にある天然ガスを取り出す新技術が広がり,「シェールガス革命」と呼ばれるほどに,天然ガス価格が下がっている。米国は天然ガス輸出を原則として認めていない。エネルギー安全保障の観点からである。しかし対日輸出解禁の可能性も高いという(桝淵昭伸,「米国産LNGが上陸する日 電力コスト大幅低下も」,『日本経済新聞』電子版,2011年9月30日付)。