原発事故前の政府機関の長期予測でもエネルギー消費は減る見通し

  「家庭のエネルギー消費は人口減少に対応して減るかも知れない。けれども日本のエネルギー需要は産業用のほうが多い。産業用は減らないだろう」。こういう考えもある。しかし日本のエネルギー消費は合計で,すでに減少気味なのだ(図3)。その減少幅は,家庭部門より産業部門のほうが大きい(図4)。2009年度の産業部門のエネルギー消費は1990年度対比でさえ減っている。加えて家庭部門も2005年度からは減っている(経済産業省資源エネルギー庁,「平成21年度(2009年度)エネルギー需給実績(確報)」, 2011年4月26日)。

図3 最終エネルギー消費の推移 単位はPJ(ペタジュール)。経済産業省資源エネルギー庁「平成21年度(2009年度)エネルギー需給実績(確報)」(2011年)から  
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図4 部門別最終エネルギー消費の推移 単位はPJ(ペタジュール)。経済産業省資源エネルギー庁「平成21年度(2009年度)エネルギー需給実績(確報)」(2011年)から
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  これらの減少が,いずれも「節電」以前の結果であることに注意しよう。2011年に日本人は節電に目覚めた。その日本人人口がこれから急減する。日本のエネルギー需要が2009年度実績よりも増えることは,まずあり得ない。

  ということは,原子力発電に依存しなくても,中長期的にはエネルギー需給の心配はないと言えるだろう。実は2011年の夏,日本の原子炉のうち稼働していたのは2割ほどだった。原発がフル稼働したときの総電力への寄与は25%くらいである。今年の夏の原発の寄与は10%に満たない。それでも夏のピークを乗り切れた。もちろん,節電は,特に産業部門では大変だったろう。しかし原発の寄与が10%に満たなくても,なんとかなる。それがわかってしまった。

  3.11原発事故以前の2010年8月に出た「エネルギー需給の長期見通し(再計算)」(総合資源エネルギー調査会策定)は,省エネルギー努力をしない場合(現状固定ケース),従来通り続けた場合(努力継続ケース)と,省エネルギー技術・製品を最大限導入した場合(最大導入ケース)の3通りを試算している。ここでいう省エネルギー努力とは,2011年に一般化した節電努力のことではない。エネルギー消費の少ない電気製品を使う,省エネルギーに有効な新技術を導入する,などの努力を指す。これらの努力を一切しない現状固定ケースは現実的ではないだろう。以下では努力継続ケースと最大導入ケースの試算結果を紹介する。

  2030年度の最終エネルギー消費は,2005年度対比で,努力継続ケースで5.3%減,最大導入ケースで16.2%減,という予測である(図5)。人口は約10%減だから,省エネ努力によっては人口減以上にエネルギー消費が減ることもあり得る。これが経済産業大臣の諮問機関の予測である。

図5 最終エネルギー消費の推移予測 総合資源エネルギー調査会需給部会「エネルギー需給の長期見通し(再計算)」,2010年8月から
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  繰り返すが,ここには節電努力は反映されていない。ということは,節電をしなくても中長期的にはエネルギー需要は減る。多少の節電努力があれば,人口減以上にエネルギー消費減となる可能性が高い(川島博之,『電力危機をあおってはいけない』,朝日新聞出版,2011年)。

  すでに述べたように,2011年夏における原子力発電の寄与は電力で10%以下,総エネルギーへの寄与では5%以下だ。2030年に原子力発電の寄与がなくなっても,なんとかなる。震災前の政府機関の予測データを用いても,こう結論できるだろう。

  となると,新エネルギー源の開発を急ぐ必要はないことになる。中長期的にはエネルギー需要は減るのだから,無理にエネルギー供給を増やす必要はない。再生可能エネルギー源にも,これは当てはまる。再生可能エネルギーの寄与が本格化するのは,どうがんばっても,だいぶ先のはなしだろう。そうであれば,その開発・使用を急ぐ必要はない。

  必要エネルギーが長期的には減る見通しのなかで,どのエネルギー源が「良い」エネルギーか。時間をかけて見極め,周辺技術・環境を整備しながら,適材適所でエネルギー源を使い分ける。中長期的には,こんな姿勢で十分ではないか。