しかし、中国では、見積もりや価格の問題こそが、トップ同士がいる間で解決しておきたい重要課題なのである。この問題が解決しなければ、トップが出席していようと工場見学がムダになろうと商談を決裂させてしまう。

教訓6:日本側は長い取引関係で損得のバランスを取ろうとするが、中国側はそれぞれの商談で利幅をきっちり確保しようとする

 価格問題のために、とにかく見積もりをこれでもか、これでもかと値切り倒そうとする中国側。「日中友好」「○○先生歓迎」と赤い横断幕を会社中に掲げて歓迎してくれていた姿は何だったのかと日本企業の役員が不信感に襲われる瞬間だ。

 「社に帰って再検討させていただきたい。もう一度、見積もりを作り直させて欲しい」と社長が切り出す。日本の社長は目の前で商談がもめているのは心理的に耐えられないのだ。社長のこの一言で今度は、中国側が日本側に不信感を持ち始める。「本当は、日本企業はわれわれに売る気はなかったのではないか」「中国側の利益については何も考えずに、日本製だというだけで根拠もなく高く買わせようとしているのではないか」「本当に売って儲けたいのであれば、とことん中国側に付き合うはずではないか」「なぜ、価格の話をこんなにも嫌がるのか」と。

教訓7:中国では利益はともに分け合うという意識が強い。だから、中国側の言い分も聞いてくれ、と相手が思うのは当然のこと

 ここでやらなければならないのは、コーディネーターがブレークタイム(休息時間)を作ること。このまま煮詰めていくと並行線だ。さりとて、ここでいったん引き揚げると次はない。なぜなら、次回も同じことの繰り返しになるからだ。

 ブレークタイムの間、日本側の社長が「社長同志、サシで話をしませんか」と切り出した。ビックリした中国側社長は少し考えて「いや、会議で話をしましょう」と日本側社長の申し出を断った。中国の社長は一人で商談に臨むことはまずしない。一人でしゃべり倒しているときも必ず腹心を同席させている。けれども、日本のように役員会で多数決を採るのとは違う。信じられる仲間の反応や意見を聞きながら、自ら決断するのだ。何でも自分で采配しているワンマン社長に見えても、必ず周りの反応は見ているのである。

教訓8:この場合、社長ではなく日本側のキーマンと中国側のキーマンが非公式に面談を行い、いくらなら折り合うのか数字を出し合うことが必要だ。闇雲に値切り倒しているように見えても、中国側はきちっと妥協できる数字を計算してもっている

 ブレーク後、先に担当者間で煮詰めた数字より、さらに安い金額を提示してくる。話が違うと一度は席を立とうとする日本企業の社長。心の中では「やはり中国での商売は難しい」と中国でのビジネス展開全体に対して悲観的になってしまう瞬間だ。

 しかし、だいたいそこで中国企業の社長が妥協案を出してくる。「先ほどの金額でいいからそれ以外のサービスを付けてくれないか」と。日本側は一同、「どこまでも中国側は値切ってくるのか」と思いながらもメンテナンス部品を当初半年間無償で提供することで妥協。中国側の社長から握手を求めてきた。商談成立の瞬間である。

 最後の妥協案は、中国側社長の面子である。部下が交渉した金額で妥協されたら社長はいらなかったことになる。だから、社長が面子を発揮するために、プラスアルファを求めてきたのだ。

教訓9:最後は、みんなの前で中国企業の社長の面子を立ててあげることが重要

 ほかの議題については、社長以下のメンバーによって後日調整が図られ、その後、何の問題もなくスムーズに事が進められた。支払いについても、当初日本側は「また期日や回数について難癖をつけてくるのではないか」と警戒していたが、2分割でスムーズに入金されてきた。

教訓10:近年、中国の中小企業はキャッシュフローが厳しく、分割の場合は支払いが滞ることが多い。だが、資金的に余裕のある大手企業はスムーズに支払ってくれる。すべての中国企業が支払いを遅らせるわけではない

 中国での商談は難しい。しかし、細かいプロセスの中でその商習慣や考え方の違いをしっかり身につければ案外スムーズにいくことが多い。特に重要なのは、中国での商談では価格交渉において社長の役割が非常に大きいということだ。部下に任せがちになる日本企業の社長は、中国進出にあたっては肝に銘じるべきだろう。

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