(3)価値観力

(3.1)価値・価値観・価値観力とは

 これも説明してきましたように、価値観とは「大切にしたいこと、守りたいこと、失いたくないこと、好ましいこと、好きなこと、公序良俗に属することなどの考え方」を表す言葉で、「プライオリティ」や「コンプライアンス」などを表す言葉にも共通します。
 
 この価値観活動には、次のようないくつかの精神活動があり、その活動を価値観活動と言います。価値観活動を推進するための価値観力とは「日々の生活や職場での活動や社会活動などを推進する時の判断力や配慮する力である」と言えます。
 
 こうした諸活動を推進できる能力が備わっていてこそ、私たちは正しく、かつ正当に仕事ができるものと考えています。次に、価値観活動や価値観力の例を示します。

①相手や自分の価値観を意識する活動→価値観意識力
②自分の価値観を形成する活動→価値観形成力
③絶対価値や手段価値を理解する活動→価値理解力
④価値判断をする活動→価値判断力
⑤価値観を保持する活動→価値観保持力
⑥価値観を変える活動→価値観変更力
⑦自分の価値観を認識する活動→価値観認識力
⑧価値を創造する活動→価値創造力
⑨価値を統合する活動→価値統合力

(3.2)価値観力を活用する

 例えば、仕事上、意思決定をしなければならない事態に直面したとしましょう。その意思決定は、いくつかある案の採択かもしれません。予測結果の選択かもしれません。候補となっているシステムの決定かもしれません。
 
 検討した案の一つひとつについて、また予測結果の一つひとつについて、あるいは候補のシステムの一つひとつについて、メリットとデメリットを勘案し、最適な案を残します。次は、価値判断に移ります。各案の価値の検討においても、各自が信じる価値観や価値リストを用いて検討することができます。でも最終的には、関係者の総合的な価値観力に依存するところが大きいと言えるでしょう。

(4)三つの力とその順序性

 以上、三つの力を単独に考えてきましたが、実際はそうではありません。三つの力を組み合わせながら仕事に、問題解決に、人生に、生活に向かっているのです。自分の置かれている状況を多くの視座から考え、漏れ・落ちや重複のない視点を用い、自分が信じる価値観に照らして、意思決定をしていくのです。

 三つの力は、それぞれが独立ではありません。互いに関係し合って強め合い、補い合って、あたかもネットワークのように頭の中に定着しているはずです。視座と言っても「立場」という視点の一つであると考えてもよろしいのです。価値観と言っても「価値」という視点の一つであると考えてもいいのです。

 三つの力を総動員して取り組む問題があるはずです。それは責任の取り方かもしれません。あるいは企業分割案に巻き込まれた場合かもしれません。リストラかもしれません。そこでは、高めた価値観力を用いて、自分なりの判断をすることかもしれません。さらに、決断をすることかもしれません。

 こんな深刻な場合には、実行しやすい価値観活動はありません。しかし、まず守りたい価値や価値観(考え方)を価値リストからリストアップして、「そのための価値リスト」を作ります。そして、必要な条件を与えて、価値図を描いてみます。この図を用いて、問題事態の解決のために、複数の解決案を作り、検討します。

 検討した解決案の一つひとつについて、例えばメリットとデメリットを考え、最も納得のいく案をいくつか残します。次は、決断性の検討に移ります。決断性は、実行の可能性を云々するのではありません。自分で判断できるかどうかを自分の価値観に照らし合わせることですが、場合によっては価値観そのものを検討することもあります。

 こうした決断性の検討においても、価値リストや自分が信じる価値観を用いて行なうことをします。作業を推進する力は、かなりハイレベルな価値観力に依存するところが大きいと言えるでしょう。

 今、私たちが言えることは、これらは方法論と言うよりは、考え方や生き方の問題と捉らえていることです。生き様の問題であり、生活者の哲学の問題でもあります。何を大切にしたいのか、何にこだわるのか、何を守りたいのかなどを自分の本心(価値観)に従わざるを得ないのです。それはあなたの運命を決めることになるかもしれません。

 さて、三つの力の発揮に順序性があるのかどうかですが、注目点や着眼点、関心事、留意点などによる視点活動こそ、最も使用頻度が高く、活発にしなければならない場合が多いと言えます。しかし、「なぜ、その視点を設定するのですか」という問いには、やはり「私は、ある視座に立っていて、ある価値観を信じているから」と答えなければならないと思われます。

 視座力、視点力、価値観力に上位下位はないでしょう。しかし、思考の順序はあるかもしれませんね。

(5)すべてはキャリアのために

 今、若者に対しては「キャリア教育が必要である」と考えられています。私は、このキャリア教育を、単なる就職活動やインターンシップの実施などと矮小化したノウハウであってはならないと思っています。

 私は定年を迎えて、既に丸4年が経ちました。現役時代を振り返ってみますと、キャリアは自分で積んでいくものであると気付きました。また約40年の仕事人生を振り返った時、キャリアは心の中にしっかりと残るものでなければならないと気付きました。

 私たちが主張してきた「視座力・視点力・価値観力」は、あなたが人生のキャリアを積むのに必要な基本的な考え方であると信じて疑いません。